龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
《それに、だ》
イッツアーリはピタッとある人間に目を向ける。
《私は見たぞ。この人間がウゴルをここへ運び入れ、我らの食事に混ぜる様を》
イッツアーリがそう指摘した人間は……トムだった。
「……嘘だ!」
トムは必死の形相で叫ぶ。
「おれは、なにもしてない!それこそでっち上げだ!!誰かがおれをはめようと……そもそもだ!」
トムはビシッとイッツアーリを指差し、この場で言ってはいけないことを言い放つ。
「人間よりもたかが獣……怪物(モンスター)ごときの言うことを聴く方がおかしいでしょう!人間の言葉以上に信頼できるものはない!!」
トムの発言に、その場がシン…と静まり返った。
竜騎士団の厩舎は、どこの誰よりもドラゴンを愛し大切にしている。竜騎士にとっても大切なパートナーであり、ともに生きる相棒。
そんな場所で一番言ってはいけない言葉を、よりによってドラゴンの世話をしてきたトム本人が言ってしまった。
ハッ、と我にかえったらしいトムは、次第に真っ青になってブルブル震えだす。
そんな彼の肩を、厩務主任が叩いた。
「なあ、トム。おまえはそれなりに働いてくれてた。この1年人手不足で大変だったが、辞めずに働いてくれて感謝してるよ……だが、な」
厩務主任は一枚の紙を取り出し、トムに突きつける。
「いくら待遇に不満があろうと、甘言に釣られドラゴンに害を加える企てに参加するのは良くないな。ん?この誓約書の血判…おまえのだろ?捜索に協力した王宮の厩務員が届けてくれたんだ」
それが決定打となった。
トムはヘナヘナとその場で座り込み、俯く。
その身柄は、竜騎士団の警備兵により捕らえられたのだった。