龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
飛竜訓練の始まる前に、意外な方が訓練場に現れた。竜騎士団団長のクロップス侯爵だ。
皆の憧れの竜騎士の一人だけあり、登場しただけでざわめきが大きくなるなか…40人の竜騎士候補生が整列する前で、彼はこう告げた。
「今から皆に、酷なことを言う。もしそれが嫌ならば、この場で申し出て欲しい。決して強制するつもりはないからだ」
シン…とその場が一気に静まり返った。
現役竜騎士団団長の言葉だ。決して冗談では済まされない。
「今から君たちは飛竜訓練を行うが、これを2か月で完璧にマスターして欲しい」
「えっ!」
「マジ!?」
竜騎士候補生達から、驚きや戸惑いの声が上がった。
それはそうだ。通常の養成学校のカリキュラムでは、半年間かけて飛竜訓練をする。それほど難易度が高い技術をたった2か月でマスターしろなんて、無茶ぶりもいいところだ。
「な、なぜですか?ボクたちは今年12月に臥龍の儀を受けるはずでは…?」
ハワードが勇気を振り絞って疑問をぶつけた。それは、候補生の誰もが抱いた疑問。でも、竜騎士団長は明快な答えをすぐに返した。
「今の竜騎士団には、ドラゴンも竜騎士も足りないのだ。それゆえ、急で申しわけないが、君たちを戦力とするために急ぐことにした。騎竜を決める臥龍の儀は8月に行われる」
「8月…!?」
「今、6月だぞ!すぐじゃないか!!」
やっぱり、当然ながら候補生からは不満の声が噴出する。そりゃあそう。1年のカリキュラムなのにいきなり4ヶ月も短縮されたうえ、一番難しい飛竜訓練に割く時間が短すぎるんだから。