龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「アリシアさん」
飛竜訓練を終えて後片付けをしているさなか、リリアナさんに呼び止められた。
養成学校に入って3ヶ月近く。彼女に呼ばれたのは初めてだった。
「はい、なにか質問?」
訓練場の土を均すトンボを手に、身体ごと彼女に向き直る。リリアナさんはいつもはまっすぐこちらを見てくるのに、今日はなんだか様子がおかしい。視線は斜め下で、両手を胸の前でもじもじ動かしてる。そわそわと落ち着きもない。
(なんだろう?話しづらいことなのかな)
「あー、よかったら別の場所に行く?個室とか」
「い、いいえ!ここで結構ですわ」
あたしが気を使ってそう提案しても、リリアナさんは全力で拒んでくる。そうは言ってももう30分はずっとこのまんまで、時間の無駄としか思えないんだけど。
こりゃあ今日は無理だな、ともう30分経ってから思ったあたしは、リリアナさんにもう一度声をかけた。
「あー、あのさ。明日じゃ駄目かな?あたしもやることあるし…」
「すぐ済みますわ!」
「……いや、その割に1時間は経ってますけど……」
いくら日暮れが遅い6月でも、さすがに8時を過ぎればすっかり夜だ。うんざりしたあたしは、埒が明かないと判断して頭を掻く。
「……ごめん、あたしも自主練とか竜騎士団の手伝いとか予定あるからさ。また明日にして」
そう告げてリリアナさんに背中を向け、数歩歩いたあとに意外な言葉が聴こえた。