龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「あんたらも好きなモンがあるならやるから、持っていきな」
椅子を斜め後ろに倒してふんぞり返るおばあさま…気前がいいけど。
「い、いいえ!お気持ちだけいただきますわ」
ほら、やっぱり。令嬢の皆さんには遠慮された。
「あっはっは、正直だねえアンタらは。顔に書いてある。アタシが不審者だってな…ま、あたりまえの感覚だわな」
そして、おばあさまはキラキラした宝石に目を輝かせるキルシェちゃんを見た。
「おい、ガキ。それが欲しいか?なんでも好きなモンやるぞ?」
「ほんと?」
「ああ、なんでも持ってけ」
女の子にとって、これほど魅力的なチャンスはめったにないだろう。宝石に詳しくないあたしでさえ、目の前にある色とりどりのジュエリーが綺麗だなって思うのに…幼い子どもならなおさらだろう。
キルシェちゃんはしばらくじいっと宝石を見ていた。そして、緑色の宝石…エメラルドの髪飾りを手にした。
大ぶりのエメラルドを中心にダイヤモンドが配されたそれは、葉っぱをイメージしたようなデザイン。それを眺めていたけど。
しばらくしてからふたたびテーブルに置いたキルシェちゃんははっきり言った。
「……いらない」
「ほう、なんでだ?」
おばあさまは興味を持ったのか、キルシェちゃんに質問する。すると、彼女はこう答えた。
「雨が降ったあとの葉っぱの方がきれいだもん!」
「あっはっはっは!!」
おばあさまはなぜだかお腹を抱えて笑い出した。周りのみんなが呆気にとられるなか、ひいひいと涙目になり、キルシェちゃんの頭を撫でる。
「いやーいいわ、アンタ!今、玉座でふんぞり返る鼻垂れ小娘のビルネよか、よっぽど王様に向いてるわー」
よりによって現在の女王陛下であられる御方を、おばあさまは小娘扱いしてますよ…。