龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「その点も、ぼくが至らないばかりに……ヴァイスにも、メローネにも、キルシェにも…そしてあなたにも迷惑をかけてしまった…それだけでない。北方でバイキングの襲撃があったのも、ぼくの読みが甘かったからだ…結果、たくさんの命を危険に晒してしまった」
王太子殿下は心から悔やむように、握りしめた拳を震わせる。穏やかだった顔にも苦悩が浮かび、唇を噛み締めていた。
実の弟を命の危険がある戦いに向かわせた…その深い悔恨の情は、簡単に慰めることができるものじゃない。
今の王太子殿下に白々しい慰めは余計なお世話だろう。
そして、王太子殿下はひとつの決断を下した。
「アンテルム殿下!!…わたくし…わたくし…静養など…」
メローネさんはアンテルム殿下の服を掴み、ぶるぶる震えてる。見た目はか弱い美女…なんですが…ね。
「わかってるよ。だが、しばらく王都を離れることは君のためでもあるんだ」
どうやら、アンテルム殿下はメローネさんを郊外の離宮へ静養に行かせることに決めたらしい。心身ともに衰弱したから療養のため、と称してるけど…。
キルシェちゃんが着いていかない、という事実。
アンテルム殿下も、やはり思うことがあったんだろう。
「それでは、メローネを送らねばなりませんので…」
王太子にしては腰が低いアンテルム殿下は、馬車に乗り込む前にまでペコリと頭を下げてくださる。
そして、見えた。
馬車内部から、ものすごい目でメローネさんがこちらを睨みつけてきたのを。
その眼差しには、確かに憎しみが籠もっていた。