龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
《……見事です、アリシアよ》
重々しい“声”が響き渡り、ブワッと風が吹く。
その風が収まった後に目を開いて、驚いた。
今まで姿かたちがなかった巨大なドラゴンが、目の前に現れたんだから。
全身がいったいどれだけ大きいんだろう。少なくとも樹齢数千年の巨木群よりふた周りは大きい。
全身が透明でありながら七色に輝く鱗でできている。
細身で端正な顔をした古代竜は、あたしに話しかけてきた。
《あなたは竜騎士にもっとも大切なものをすでに得ていますね。なれば、竜騎士となるは必然であり、最も相応しき者…いずれ龍騎士となるでしょう》
古代竜がそう告げるとあたしの手にしたバーミリオンの角が光り輝き、そのままショートボウの形をとる。バーミリオンにふさわしく、鱗と同じ赤い弦だった。
「森に入ってずっと呼んでいたのは、あなたですか?」
竜騎士と認められたのは嬉しいけど、どうしても気になって訊いてしまった。
《はい。あなたに救ってほしいからです》
「……救ってほしい?なにをですか?」
古代竜は一度目を閉じると、目の前にふわりと光の球が飛んでくる。そしてそれが広がると、不思議なことにそこに違う光景が映し出された。
映っていたのは海…船…そしてドラゴンと…。
「ヴァイスさんと…シルヴィア!?」
一昨日、出発した時はバイキングの襲撃はなかったはずだ。となると…その後で襲撃があった!?
《アリシアよ、連中との戦いはおそらくこれが最後になるでしょう…だからこそ奇襲をかけ、猛攻を…このままでは危うい…この森も、このままでは奴らに蹂躪されてしまう。だからあなたに救ってほしいのです》