龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「……実は、実家から結婚はまだか?と催促されていましてね」
「は?」
ヴァイスさんが唐突に自分語りを始めるから、きょとんとして聴くしかない。
「私としては、まだ結婚したいわけではありませんが…いい年で婚約者も決めない、恋人もいない…ということで、男色疑惑が浮上したり、実家で強引に婚約者を決められたりしそうになっていて困っているのです」
「はぁ…」
要するに、まだ結婚したくない、って事だけはわかる。
「ヴァイスさんならモテますよね?いいと思える女性くらいいるはずでは?」
「実家との兼ね合いで、なかなか難しいのですよ。兄はすでに結婚して子どもはいますが…」
「お兄さんが結婚していて子どももいるなら、別にヴァイスさんが結婚する必要はないと思いますけど」
「普通はそうですね。ですが、私の実家は少々特殊でして…独身は許されないのです」
(うーん…なんか面倒くさそうだね)
「ですから、アリシア。あなたに偽の恋人を演じていただきたいのです」
「…は?」
言われた言葉に耳を疑っていると、ヴァイスさんはなにかを差し出してきた。
受け取ったものを見ると、ちいさなカメオ製のブローチ?ヴァイスさんらしき肖像が彫ってある。
「それを、肌見離さず身に着けていてください。できれば胸もとに」
「え…っと…これを身につけるだけでいいんですか?」
「はい、とりあえずは」
よくわからなかったけど、身につけたシャツの胸もとに着けてみる。うん、やっぱり似合わない。
そして、ヴァイスさんは微笑んでこう請け負ってくださった。
「いいでしょう。アリシア、あなたがこれを身につけたならば、私は責任を持ってあなたを竜騎士候補に推薦します」
「本当ですか?ありがとうございます!」
夢が、本当に叶うんだ! 大はしゃぎするあたしの影で、おばあさまが「メダリオンを贈りやがった…本気かこいつ…」と呟いた意味を、まだ知らなかった。