龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?

病み上がりのまま出発したヴァイスさんの身が心配で、眠れない時もあったけど。こうして無事に戻った姿を見られてよかったと思う。

「無事に帰られてよかったです」
「ありがとう…ですが、私としてはアリシアにこそ遠征に来てほしかったのですが」

ヴァイスさんは残念そうな顔で、とんでもないことを言う。

「そんなこと…あたしはまだただの候補生なんです。あたしより素晴らしい技術と実力を持った竜騎士さん達を差し置いてなんて…とても無理ですよ」

また、だ。
ヴァイスさんはどうもあたしを過大評価しがちだ。
辺境の地では毒にやられていたし、他に比べる竜騎士がいなかったから、真の実力以上に素晴らしいと思い込んだのかもしれない。

「まぁ、いいでしょう今は。そういえば、今日から学校で騎乗訓練でしたよね?」

ヴァイスさんの言葉で今日のカリキュラムを思い出し、一気に気分が高揚した。

「そうなんですよ! 今日、久しぶりにヤークに乗れるんです!故郷で乗らせてくれる子はいたんですけど、ほんとに稀でしたし。楽しみです」

ほんとうに嬉しくて、頬がゆるむのを止められない。
ヤークに乗れるのは何年ぶりだろう。
子どもの頃はまだ翼があるドラゴンに乗れなかったから、主にヤークに乗らせてもらっていた。

ヤークは翼が無いから飛べないけど、どの生き物より速く地上を走れる。風を切って走るその疾走感は何にも代えがたくて。どんな嫌な事があっても、ヤークとともに駆ければ忘れることができた。
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