龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
《……なあ、アリシア。このクソ女、見捨てても咎められないと思うぞ?》
「バーミリオン、黙って!」
猛スピードでいつ落ちるかわからない緊張感。風圧で呼吸すら苦しいなか、ここまで強がれるのは逆にあっぱれだ。だけど。
「……馬鹿!いつまでも強がってないで、手を伸ばしなさい!文句なら、後でいくらでも聴いてあげるわ。まずはあたしに文句を言うために生きるための努力をしなさいよ!」
風が邪魔して途切れ途切れだろうけれど、リリアナさんにそう言ってあげた。
「あたしだって、あなたに言いたいことはたくさんあるんだから!だから、助かってちゃんと聴いてよ!!」
そう告げると、リリアナさんの口元がフッと緩む。
「……あなた、生意気ですわね」
「お互い様でしょ!」
やっと、リリアナさんが片手を伸ばしてきた。
「つかまって!」
精一杯腕を伸ばして、ようやく指先が触れた。
だけど、次の瞬間ヤークが進路を変えて離れていく。
(まずい…まずはヤークの興奮を鎮めないと)
腰に提げた革袋から包みを取り出し、バーミリオンに頼んだ。
「バーミリオン、ヤークの風上に先回りして!」
《ハイハイ、よっと!》
バーミリオンは二段回目の加速をして、ヤークの進路へ先回りしてくれた。
「リリアナさん、息を止めて!やあっ!!」
手にした包みをヤークの鼻先に投げると、パッと開いた包みから粉が広がる。