龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「今!」
眠り薬が効いてヤークのスピードが緩んだ隙をつき、リリアナさんの手を引っ張ったけど。
「あっ!」
《アリシア!》
風圧でバーミリオンを掴んでいた手がすべり、リリアナさんごと地面に落ちそうになった。
咄嗟にリリアナさんを抱きしめ、衝撃に備える。
(リリアナさんだけでも助けないと!)
《ナロッ!》
バーミリオンがスピードを緩め、あたしたちに追いつこうと懸命に羽ばたく。
でもタイミングが合わず、身体同士がぶつかって跳ね飛ばされた。
《ちくしょう!アリシア!!》
(あ、だめだ、これ)
さすがにこれ以上はどうしようもない。ギュッと目をつぶって、せめて少しだけでも衝撃を緩和しようと受け身の体勢を取った。
「アリシア!!」
気のせいか、ヴァイスさんの声が間近に聴こえた、と思った次の瞬間。
ばふん、と柔らかい衝撃を、全身に感じた。
ザザザッとなにかが擦れる音と、徐々にスピードが緩み、やがて静止したとわかる感覚。
閉じていたまぶたを開くと、いつの間にか自分がヴァイスさんの腕の中で庇われていたことを知る。
彼が全身であたしたちを受け止めて、衝撃とスピードを緩和してくれたんだ。
彼の背中に触れると、手のひらにべったりと血がついてきた。擦れて傷ができたんだ。
「ヴァイスさん、背中が……」
「大丈夫です。それよりアリシアこそケガは…?」
「あたしとリリアナさんは無事です!早く、手当てしてください」
あたしが革袋から傷薬を出しているのに、ヴァイスさんはあたしをギュッと抱きしめる。
「よかった……あなたが無事ならば、こんな傷くらい、大したことはありません。本当に、無事でよかった…」
気のせいか、彼の身体が微かに震えてる。
あたしを本気で心配してくれたんだ、と思うと胸がズキンと痛む。
その後、ヴァイスさんは「大丈夫ですなんて」言ってたけど。教官に竜騎士団の病院へ強制連行された。