龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
まるで、本当にあたしを失うことを恐れているかのように。ギュッとますます力を込めてあたしを抱きしめてくる。
本当に、この人は怖かったんだ。
あたしが怪我をすることが。
そう感じたら、こそばゆいような、申し訳ないような、嬉しいような。なんだか不可思議な気持ちになる。
「……大丈夫、あたしは絶対に死にません。なんたってあたしには、おばあさま直伝の悪運の強さがありますから!」
落ちてるヴァイスさんの気持ちを盛り上げようとおばあさまの話を出せば、やっぱり彼はすぐに乗ってくれた。
「アリスさん……強烈な御方でしたね」
「でしょう?ヴァイスさんを起こすのに、葉巻きスパー!ですからね。まあ、最上級のハーブを使っていたんですけど」
「でも、アリシア。君が命がけで採ってくれたアーブローズもしっかり効きましたよ」
そう言ったヴァイスさんはあたしの左手を取ると、人差し指の爪にそっと触れる。
「その時の登坂で、爪が剥がれかけてまで……あなたは私を助けようと」
「べ、別に。これはあたしが勝手に手をケガしただけだから……っ」
びっくりした。
いきなり、ヴァイスさんがその爪に口づけてきたから。
かあっと頭が熱を持って、顔が茹で上がったタコのように真っ赤だ、絶対。
「ヴ、ヴァイスさん…こんなごつごつの荒れた手になんて……もっと、きれいな手の人に……」
なぜか、思い出されるのはさっきのメローネさんの女性らしいたおやかな細い指。対するあたしは節くれだっているし、皮も厚くてごつごつの傷だらけ。とても美しいなんて言えない。
なのに。
ヴァイスさんは
「私は、好きですよ」
ときっぱり言い切った。