龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「お待ちしておりましたわ、アリシア様」
「え…っと…ハイ…オネガイシマス」
思わず言葉がカタコトになるのも仕方ない。
とりあえず宿舎が空くまでの間だけ、というからヴァイスさんのお家にお邪魔したら……。
ドラグーン城の本殿ではなく少し離れた場所に建てられた別宮。5階建ての古い石造りのアプリコット城。
周囲を城壁や塀で囲まれ、城門や青い尖塔まである。
周りは自然豊かな環境で、竜騎士団本部にも近い。
それはいいのだけれどヴァイスさんに連れられて足を踏み入れたら、正門でズラリと使用人の皆さんが連なって頭を下げてきまして。
一体、何十人いらっしゃるのでしょう?
「ようこそ、アリシア様。はじめまして、わたくしは侍女長のアンナと申します。これより身の回りのお世話はこのメグとベス、エリィが承ります」
白髪をきっちり結った紺色のワンピースを着た年配の女性に最敬礼で挨拶され、慌てて頭を下げようとしたら、いきなり彼女から注意を受けた。
「アリシア様、あなた様はいずれヴァイス殿下の妻となられるべきお方。そのように容易く頭を下げるものではありません」
「えっ…と、そうなんですか。すみません、田舎娘で常識知らずなもので…よろしくご指導ください」
ついついぺこりと頭を下げてしまうと、クスクスとヴァイスさんに笑われてしまいましたよ。
「アンナ、アリシアに礼儀作法を教えるのはまだ後でいいよ」
「…しかし、デビュタントもまだでしたら、今から厳しくお教えしなくては」
デビュタント?と聞き慣れない単語に意識を取られると、ヴァイスさんはいいから、と宥めた。
「それについては、おいおい準備していくとしようか」