龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「アリシア」
「はい」
「手を出していただけますか?」
「……はい?」
馬車の車内では向かい側に座っていたから、ヴァイスさんの謎のリクエストに応えて右手を差し出すと、彼は紙の包みを渡してくれた。
中身を見ると、ティーハウスで食べそこねた色鮮やかなババロアや、クッキーにケーキまで。
思いもよらないお土産にびっくりして、思わずヴァイスさんの顔をまじまじと見てしまった。
「ヴァイスさん、ありがとうございます。こんなにたくさんお土産を。皆でいただきますね」
「いえ、これくらいなんでもありませんよ」
きっとメグたちは喜ぶだろうな…なんて、紙袋を抱きしめながら彼女たちの笑顔を想像するだけで楽しい。
だけど、あたしはついつい今日の出来事でヴァイスさんに言いたいことがあった。
「ヴァイスさん」
「はい」
ヴァイスさんは平然とした顔をしてるけど、今空いた手であたしの手を握ってる。彼はこうやってあたしによく触れてくる…人目がない時にまで。
ドキドキするのはあたしばかり。
なんだか悔しくて、思わず彼を問いただした。
「あたしは偽の恋人のはずですよね?なら、こんなふうにいちいち触れたり…周りを誤解させる事をしていてはいけないんじゃないですか?」
「私は、構いませんが?」
あたしの反論を、ヴァイスさんはばっさり切り捨てる。
「むしろ、アリシアが私のものだ……ということを広く知らしめたいくらいなのですがね」