龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
ヴァイスさんはあたしの腕を掴むと、そのまま身体を引き寄せる。そして、また腕のなかに閉じ込めてきた。
「本当は、こうしてずっと腕のなかに閉じ込めておきたい……他の男の目に触れさせたくはない……危険なことをしてほしくはないのです」
耳もとで囁かれて、吐息がこそばゆいし…なんだか熱い。そのまま耳に口づけられて、思わず身体がビクッと強張った。
「……すみません……性急過ぎましたね」
ヴァイスさんは謝罪してくれたけれども……今までに無い経験ばかりで、頭が混乱していた。
でも、あたしの中で湧き上がるのは……怒り。
本気でないくせに、惑わせてくる彼に怒りが募った。
「ヴァイスさん……」
「はい」
「あなたは……他に好きな人がいるのではありませんか?なら、こんなふうに誤解をするような……態度は謹んでください!」
遂にあたしがそのことをぶつけると、ヴァイスさんは困ったようにため息をつく。ほら、やっぱり!と息巻いていると。
彼はあたしの肩を掴むと、まっすぐに目を見据えてこう言った。
「メローネのことですね。確かに私の初恋は彼女でしたし、子どもの頃は結婚の約束もしました……ですが、彼女は15の夜に兄と通じ合い、そのまま婚約したのです。もう、十年近く昔のこと……すでに吹っ切れていますし、私にとっては過去の懐かしく苦い思い出に過ぎません。今では、兄の妻としてしか見ていませんから」