龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
手のひらに載る大きさでピンク色の表皮に緑のつぶつぶ。
南国の果実、ウゴルだ。
甘くてジューシィな果肉で、栄養豊富。ドラゴンの好物でもある。
ただ、かなり高価な上にひとつ問題がある。
1週間に一度食べるくらいなら問題はない。
けど、毎日食べればドラゴンの身体に異変が起きる。
人間では問題ない成分なんだけど、ドラゴンの中で毒素に変わり内臓がやられたり、筋肉が弛緩して身体が動かなくなったり…最悪、呼吸ができず死に至ることがある。
「あの、ウゴルが入ってますけど…大丈夫なんですか?他の日には食べさせてないですよね?」
近くの厩務員さんに訊ねてみるけど、汗だくの彼はムッとした顔をしてあたしを睨みつけた。
「このクソ忙しい時になに言ってんだ、あんたは!こっちはくだらねえお喋りしてるヒマはねえんだよ!」
確か、彼は入って2年目の厩務員さん……トム、だっけ?いつも不機嫌そうで、よくあたしに難癖をつけてくるんだよね。
(……まぁ、今日だけなら大丈夫か。でも、一応あたしが担当する子のご飯からは取り除いておこう。万が一ってこともあるし)
もしもウゴルが今日だけの特別提供だったらごめんなさい。そしたら後でまたあげればいいか……と、二輪車を引いて崖の上を見上げる。
クロップス侯爵の騎竜、バハムートのイッツアーリが翼を休めてる。
「こんにちは、イッツアーリ」
「………」
「今日も鱗が綺麗でかっこいいね!」
「………」
「ごはん、ここにおいておくから。今日はウズラの肉を追加したよ。ちょっとお疲れ気味みたいだから精をつけなきゃね!」
「………」
「じゃあ、またね!」
朗らかに手を振ってみるけど、イッツアーリからは完全スルーで無視された。
(うう……やっぱりこっちを見てもくれない……でも、めげない!いつかお話ししてみるんだ!)
新しく闘志がメラメラ燃えてきた。