龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「アリシア、やはりここでしたか」
透き通ったその声が聴こえただけで、自然と鼓動が速くなる。澄んだ水のような清浄な香り…。
「ヴァイスさん」
あたしが振り返ると、すでに龍騎士の制服を身につけたヴァイスさんが歩み寄ってきていた。
やっぱり訓練されているだけあって、歩き方もきれいで無駄がない。
「メグがカンカンでしたよ。また土まみれで帰って来るか…と」
「あはは、後で謝っておきますよ」
侍女のメグあたしを心配してくれてるんだけど、お説教コースはやめてほしいかも。
《よお、色男。朝からいちゃつくなよームグムグ》
「おはようございます、バーミリオン……おや?」
片手を挙げてバーミリオンがヴァイスさんに気楽に挨拶。ちょっと悔しいけど、バーミリオンはヴァイスさんにも気を許していて、心話で会話できるようになってる。
バーミリオンの手元を見たヴァイスさんは、彼の足元に散らかった果実の皮を摘んで匂いを嗅ぐ。
「……これは、ウゴルですね」
「はい。配合資料にはなかったですし、どれくらいの頻度で摂取しているかわからなかったので、ひとまずあたしの担当しているドラゴンには与えてません」
あたしの話を聴いたヴァイスさんは、眉を寄せて怪訝な顔をした。
「……確かに、竜騎士団の輸入品目にも、ウゴルの記載はここ数ヶ月なかったはずです。1000頭の騎竜分を用意するとなると、個人ではひとまず無理な話……これは、気になりますね。少し調べてみましょうか」
ヴァイスさんの言葉に、あたしも賛同した。
「はい。ドラゴンたちになにかあってからじゃ遅いと思います。よろしくお願いします」