龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
あたしは答える代わりに、ザラードへ逆質問を返した。
「ザラード、人と直に戦ったことはある?」
「え……なにそれ?人と戦うなんて……今は戦争も無いし、まだ竜騎士にはなってないからそんな機会はないよ」
当然、そうだろうな。ザラードは商会の息子だけど、裕福な方。となると、実家では使用人もいるだろうし、彼の性格を考えればケンカなんて無縁の生活をしていたはず。
「だろうね。でも、あたしが住んでた辺境の地では幻獣がたくさんいたんだけど……たまに密猟者が入り込む事があったの。大抵はおばあさまが追い返したり捕らえるんだけど、あたしも手伝うことがあってね。ああいった連中はいくら言葉を尽くしたところで、素直に帰ることはない。だから、実力行使するしかないんだ」
「実力行使……」
ごくり、とザラードが喉を鳴らした。自分に当てはめて想像したんだろう。実際に竜騎士になれば人間相手に戦うこともある。
「そう。躊躇っていたら逆にやられる。だから、傷つける覚悟をして戦う。でも、さすがに命を奪うまではしたくない。矢は刺さるだけじゃいけない。たとえば胴体に当てる時、内臓や太い血管に達しないギリギリで刺さるようにしないと、大量出血で死ぬ確率が高くなる。手足もそう。腱を切ってしまえば歩けなくなってしまうでしょう?そうならない浅い位置で矢尻が停まるようにしたいの…けど、本当難しいね」