龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
バシッ!と鋭い音を立てて、矢が的に当たる。
おおっ!と、大げさなほどに後ろから歓声が上がった。
「……と、まぁ。これが騎射の見本となる。一見簡単に見えるが、騎乗しながら姿勢を保ち的に当てる……様々な動作を一度にこなす必要があり、難しい。だが、竜騎士には必須のスキルだ。各々いずれ得意武器は決まってゆくが、ひと通りの武器を使いこなせればオールマイティーな活躍が可能となる。今のうちに習得しておくことだ」
主任教官であるバルド卿に頼まれて騎射してみたけれども、まさかあたしの騎射がお手本にされるなんて思わなかった。
「それでは、2人ひと組で騎射練習を行う。はじめ!」
バルド卿の合図でヤークに乗った騎射練習が始まった。
ここ1ヶ月毎日毎日ヤークに乗っていたから、さすがに皆もう騎乗はお手の物。だけど、そのうえで武器を使った動作は難しいらしい。
「わ、わわっ……バランスが崩れる!」
「ちょ、走るスピードが速すぎる!もっと緩めてよぉ」
「なんでそこでターンするの?違う、まっすぐ走ってくれよ」
「当たらない!難しすぎんだろ、コレ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図……は冗談にしても、ほとんどの候補生が竜上で弓をつがえることすら手こずってる。
よしんば弓を射れたとしても、まっすぐ射れずに矢が明後日の方に飛んでく。
(え……なんでみんなそんなに手こずるの??難しいっけ、これ?)
もう一度ヤークの上から弓を引き絞り、矢を放つとまっすぐに飛んで的に当たる。
やっぱり、あたしにはなんにも難しいことじゃなかった。