キミとの距離が、縮まらない。


あまりのショックに言葉を失った私は、その場から逃げるように、さっき入ってきたドアを開けた。


ドアを開けてすぐのところに、ちょうど長谷川くんが立っていて、私を見るなり、長谷川くんは目を見開いた。


「黒田さん!?どうしたの、ペンキの缶でも落ちてきた?全身真っ赤…」


「長谷川く…」


ぶわっと涙が溢れ出る。


惨めで、弱くて、情けない私を、一番見られたくなかった人に見られた。


――恥ずかしい…!


気付いたら廊下を猛ダッシュで走っていた。


他のクラスの人が、私を見るなり、驚いて脇に避けていく。

廊下の角を曲がり、その先にある誰もいない手洗い場に着いてから、窓に映った自分の顔を確認する。


胸のあたりに受けた赤いペンキが、顔に飛沫(しぶき)のように散っていた。


――返り血浴びたみたいじゃない…!


胸より下も、垂れたペンキで真っ赤に染まっている。


途端に私の目からポロポロと大粒の涙が流れた。
曇ったメガネを外し、掌で涙を拭う。
メガネにも、赤い飛沫がかかっていた。


――ひどい、なんでこんな…。


手洗い場の水道水で、顔についたペンキを落としながら、私はぐるぐると思考を巡らせていた。

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