想いはじける、夏。
素直になれたら
「なぁ、美咲。それ貸して」
「なんで」
「いいから。これと交換」
前の席に座っているそいつは、私がパタパタと扇いでいる下敷きを指差し、自分の下敷きを差し出してきた。
「ん」
「さんきゅ」
意味はよくわからないけど、レモン柄の自分の下敷きを渡し、無地のブルーの下敷きを受け取った。
そしてまたそれでパタパタと扇ぎだす。
登校してきただけで汗だくなのに、教室の中はクーラーがまだ効いていなくてほとんどみんな同じ動作をしている。
ある意味、夏の風物詩だ。
「お前ら、ほんと熟年夫婦みたいだな」
「だろー?邪魔すんなよー」
そいつの周りにたむろしている男子のいつもの冷やかしに、いつものように返すお調子者。
ほんと、こっちの気も知らないで・・・
付き合ってもないし、両想いでもなんでもない。
目の前で横向き座っているこのお調子者、二ノ宮大河(にのみや たいが)は中学の頃から仲の良い男友達。
高2になって背も高くなって、子どもっぽさが抜けてきて、でもニカッと笑った顔がまだあどけない。顔が整ってるうえ、制服も着崩しちゃって、ちょっとチャラい感じがまた沢山の女子の心を虜にしている。男子の中でも人気者。
平気なフリをしながら、こういう大河の言葉にいつもときめく私はほんとに馬鹿だと思う。
大河にとってはいつもの冗談で、適当に返してるだけ。
私のこの想いはたぶん、ずっと、一方通行。
そんな今日は、あと5日で夏休みに入る月曜日だった。
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