カマイユ~再会で彩る、初恋


待ち時間なしという近場の和食処に注文した。
住所が分からず、オーダー自体は彼女に任せたが、俺のスマホから注文したこともあって、住所は入手できた。
これで、何かの時に使えるよな。

烏の行水のごとくシャワーを浴びたのか、数分で浴室の方からドライヤーの音が聞こえて来る。
そんなことを心配していると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
注文したものが届いたらしい。

玄関ドアを開けると、配達の若い男が袋を手にして立っていた。

「お待たせ致しました。ご注文の品になります」

男の手から袋を受け取り、会釈しながら溜息が漏れる。

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

深々と頭を下げた配達人がエレベーターホールへと向かっていく。
その背中を見送り、玄関ドアを閉め、鍵もかけて……。

「やっぱり、セキュリティは譲れないな」

宅配ボックスがあるとか、コンシェルジュがいるとか。
対面で受け取らなくても済むようなシステムがあるならそれに越したことない。
……ダメだ、悪い方にばかり思考が傾く。
小言が言いたくて来たわけじゃないのに。



「待ち時間なしってあったから、味は期待してなかったんですけど、結構美味しかったですね」
「そうだな」
「先生、明日お休みですよね?」
「ん」
「……泊まっていきます?」
「へ?……いいの?」

日付変わる前に帰ろうと思ってたのに。
お泊り許可貰えるなら、もちろん泊まっていきたい。

「でも、日用品とか私のしかないですし、車も駐めっぱなしになっちゃいますよね」
「それはどうにでもなるだろ」

そういうのは気にしなくていい。
いやいや、そういうんじゃなくて。
簡単に男を泊めようとするな。
この俺でも。

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