カマイユ~再会で彩る、初恋


「好きっ、……先生、大好きっ」

酔いが回ってる時の言葉だって分かってるのに、初めて彼女の口から『好き』だと言われた。
自分でも口にしてないのに。

出会った頃に祥平が言ってたな。
酒に酔った時こそ、本音が出ると。

だから、あいつはバーで働くのが好きらしい。
人間が一番人間らしく本性を表す時、一番近くで寄り添えるからと。

ポロっと呟いた言葉でも、これが本心であったら嬉しい。
七歳も年上で、しかも世間体では恩師という崩せないような関係性だから。

腕の中に収まる彼女が、ぎゅっと抱きついて来る。
もう何度目か分からないハグなのに、毎回心臓が破裂しそうで。
いい歳して、こんなに心を揺さぶられる存在に出会えるとは。

「先生」
「……ん?」
「先生の、……恋人だと……思っていいんですよね?」
「へ?」
「やっぱり、……揶揄いだとか、遊びの範疇なんですか?」
「………」

まぁ、そうだよな。
そう思われてもおかしくない。
十年前の俺を考えれば、ありえないことだらけだもんな。

『好き』だと言われ、『恋人』かどうかを確かめられている。
俺ばかりが好きなのだと思っていたのに。

「自信が持てない?」
「……え?」
「俺なりに態度に示してたと思うけど」
「……っ」
「言わなきゃ分からないなら、言ってやる。……幾らでも」

抱きしめる腕をほんの少し解き、彼女の耳元にそっと近づく。

「再会したあの日からお前はもう、俺の教え子じゃないよ」
「っ……」
「好きでもない女を自宅に呼んだりしないし、キスしたいとも思わない」
「っっ……それって」
「……好きだよ、茜が」

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