カマイユ~再会で彩る、初恋


キッチンで野菜を切りながら、他愛ない会話を佑人とする。

「それで?その後どうしたの?」

出張でロンドンに行った際に男性にナンパされたらしくて、断ったらホテルまでついて来たという話を聞かされた。

「さすがに『じゃあ、一杯』ってわけにもいかないだろ」
「うん、まぁね」

佑人は見た目ワイルド系で男性から見てもカッコいい風に見られる。
百八十センチを超える長身だし、ジム通いしてるから筋肉も結構ついてるし。
合コンをすれば、確実に一番最初にターゲットになるような人だ。

「業務以外はホテルに籠って、散々な一週間だったよ」
「そりゃあ大変だったね。あっ、そうだ。佑人に頼まれたアイマスク、鞄の中に入ってる」
「え、結構早かったな。サンキュ」

操縦士やCAの間で愛用者が多い自社オリジナルのアイマスク。
既に販売期間が終わっていて、会社に問い合わせて取り寄せたもの。

リビングソファの上にある私の鞄からアイマスクを取り出した佑人が、キッチンへと戻って来た。

「なぁ、もうこのくらいにして、海行かね?」
「あ~うん、そうだね」

野菜のカットも終わり、あとは焼くだけ。
千奈たちを海に送り出し、小一時間ほどが経っていた。

「よーし、佑人、泳ごっか!」
「そう来なくっちゃ!」

にかっと笑う佑人が眩しく見えた。
いつだって誠実な彼に、ほんの少し後ろめたさを感じた。

彼の好意を知りつつ、それを利用するみたいに心地いい関係を維持したいだなんて、虫がよすぎる。
彼の優しさに甘えて、どんどん欲深い女になってる気がして。

「た~かしぃ~っ、スイカ割りやろーぜぇ~~」

海パン姿で駆け出す彼の背中に、『ごめんね』と心の中で何度も呟いた。

< 112 / 177 >

この作品をシェア

pagetop