カマイユ~再会で彩る、初恋
テラスで先生におねだりした。
家には幾つもの絵が置かれているけれど、先生が描いているところが見たくて。
キャンバスを通して見ている世界がどういうものなのか。
いつも気になっていた。
少し憂いた表情をしていて、どこか儚げで。
男性なのに綺麗という言葉がピッタリだと思えるほどに、魅惑的な横顔が今も鮮明に記憶にある。
テラスから見える景色を描いているのかと思えば、何故かテラスから見える景色を楽しみながらティータイムしている私が描かれていた。
それも、緑の水彩絵の具一色で描かれたもの。
華麗なタッチと絶妙な色使いで、風にそよぐ木々の葉音さえ聞こえて来そうなほど。
靡く私の髪や紅茶の味わいでさえ絵から伝わって来そうなほど繊細で。
一色なのに何色も使われているようにさえ感じられるほど。
「水彩画でよく使われる技法だよ」
「技法?」
「そう、技法の一つ。一色で表現する『カマイユ』という技法だよ」
「……カマイユ」
「色の移ろいは心を映す鏡のようで。……少しずつ色を乗せてゆくのは、俺たちみたいだろ」
先生って、美術の先生だけあってロマンチストだ。
絵を通して、こんな風に想いを伝えられるのも先生だけ。
十年前はただ見ているだけだったのに、今はこうしてその絵に関して聞くこともできる。
先生がどうしてそれを表現したかったのか。
どんな想いが込められているのか。
彼の心に触れられる瞬間だと思うから。
「私にも教えて下さい」
「……水彩画を?」
「カマイユ?……を」
「あぁ、いいよ」