カマイユ~再会で彩る、初恋

程よく酔い始め、肌を撫でる夜風が心地いい。
知り合いが誰もいない山奥に来て、先生と二人きり。
都会の喧騒が嘘のように、虫の鳴く声と風に揺れる葉音に癒される。

「茜、こうして指出して」
「……こうですか?」

親指と人差し指でL字を作る。
先生のを真似て空に翳すと。

「こうすると、俺達だけの四大辺形の出来上がり♪」

手首を返した先生の指先が私の指先にくっついた。
それは、夜空に浮かぶ四大辺形と同じ形で、私と先生の指が合わさった四角形の中に本物の四大辺形が見える。

「ホントだ」

先生って、やっぱりロマンチストさんだ。

テーブルを挟んで座っていた先生が、すぐ横にいる。
指先を合わせたのは口実で、隣りに来たかったのかな?だなんて、お花畑全開の妄想が膨らむ。

風に乗って仄かに香ってくるベルガモットとレモンの香り。
途端に胸が騒ぎ出す。

いい歳した大人の恋人同士で旅行に来ているのだから、何もないはずがない。
というより、それ自体を期待している自分がいる。

恩師と教え子という関係性でもなく、再会した知り合いというのでもなく。
ちゃんと想いを伝え合った恋人同士という関係性で、少しずつでも進展させたくて。

寝て起きたら『ごめん、やっぱり無理だ』と言われるんじゃないかとずっと不安で。
七歳も離れているから、生徒というイメージが抜けないかもしれないと思ったり。
恋愛からずっと遠ざかっていたこともあって、色気がないと自負してる。

だからこそ、好きな人から女性として見て貰いたくて……。

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