カマイユ~再会で彩る、初恋

母親が亡くなったのは、白杜が十五歳の時。
元々体の弱かった美園(みその)は、夫である譲と愛人との間に子供ができたことを知り、心労が祟って息を引き取った。

白杜は自身が描いた絵を売り、お金を貯めて大学を出て、その後、母親方の祖母がいる日本へと渡った。
有名国立の大学院を卒業し、英語教諭の資格も取得し、母親の母校である名門私立高校に就職した。

穢れを知らない子供たちに紛れて、どす黒く濁り切った心を浄化したくて。
青春らしい青春を謳歌できなかったことが、心の奥に蟠っていて。
母親が過ごした地で、たくさんの生徒たちと過ごすことで、ほんの僅かでも青春を味わうことができると考えた。

本当は、そんな身勝手すぎる欲望を教え子たちに向けてはいけないのに。

毎年たくさんの生徒が卒業してゆく中。
今でも心に、鮮明に記憶されている教え子がいる。

『五十嵐 茜』
中等部からエスカレーターで進学して来た女子生徒。
外交官の父親を持つ帰国子女で、綺麗なネイティブ発音をする英語の上手な生徒。

有名私立高校というだけあって、英語やフランス語を話せる生徒は他にもいたが、彼女の声は耳に心地よい響きを与えてくれた。
小鳥が囀るような、小川がせせらぐような。
花が香り立つような、風が肌を撫でるような。
スーッと溶け込むようで微かに気配を残すようなそれが、何とも言えないほどに俺の感性に訴えかけて来た。

姿は凛と佇むカラーのように美しく。
それでいて、少しぐらいでは折れないような強さも兼ね備えていて。
気が付くと、目で追っていた。

父親のように女に溺れるような感情に支配されないように。
欲望に憑りつかれるみたいに心を奪われないように。

人物画は授業や課題以外では決して描かないと決めているのに。

なのに、彼女だけは……。
どうしても描きたくて仕方なかった。

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