カマイユ~再会で彩る、初恋


「こんばんは~」
「お仕事、お疲れさま」

十月上旬の土曜日二十時過ぎ。
仕事終わりの先生が迎えに来てくれた。

いつもの待ち合わせ場所のイーストタワー前に停車している先生の車に乗り込もうとした、その時。

「ん?」
「……どうかしたか?」
「あ、いえ…」

助手席の位置がいつもと違うことに気付く。

私が通っていた時も今も、先生は生徒を車に乗せることはしない。
プライベートなことを踏み込んで聞いたりしないから分からないけれど、誰かを乗せたりしたのだろうか?

助手席に荷物を載せたりする時にシートを引くことはあっても、前にスライドさせることはあまりない。
大型SUV車だから、後部座席に荷物を載せるくらいなら、トランクルームに乗せるのが一般的。
佑人の車がそうだからだ。

シートベルトをする前に、座席の位置を少し後方へとスライドさせる。
シート自体は少し倒されていて、助手席側の車窓が見えづらくはなってなくて気が付かなかったのかな?

カチャッとシートベルトを装着して思い出す。

何年か前に付き合った彼が浮気した時、助手席の位置が頻繁に変えられていた。
決定打はシートの背凭れに付着していた長い毛髪だったけれど、その時の動揺に似た心境に陥る。

まさか、……先生が浮気?

人間、疑い始めると次から次へとそれらしく見えてくる。
普段つけているはずの腕時計をしてないことや珍しくグレーのYシャツを着ていたりすると、不必要にドキッとしてしまう。

「来る途中で弁当買っておいたんだけど、それでいい?」

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