カマイユ~再会で彩る、初恋
他愛ない会話なのに、完全に自分を見失っているかも。
レストランでもなく、先生の手料理でもない。
『お弁当』という物だって、今まで何度も一緒に食べたりして来たのに、愛情が欠けたように感じてしまう。
勝手にイメージを作り上げて、思い描く出来事と違うだけで疑い始め、あたかも先生が浮気してるんじゃないかと思い込み始めてる。
「車検か何かだったんですか?」
「え?……いや」
『きっと、そうに違いない』と半ば強引に思いたい自分がいる。
軽快に車を走らせながら顔を横に振る先生を視界の片隅で捉える。
ダメだ。
完全に否定して貰わないと、心のモヤモヤが消えそうにない。
でも何て聞けばいいんだろう?
ズバリ『好きな人が出来ました?』だなんて聞けたらいいのだろうが、『あぁ』だなんて返答されたら立ち直れない。
体の向きは正面を向いたままなのに、全神経が先生の方に向いている気がする。
先生の気配そのものが刺激になってしまって。
「茜?」
「……はい」
「具合でも悪いのか?」
「え?……いえ、大丈夫です」
先生も何となく私の違和感に気付いたのかもしれない。
時折チラチラと視線を寄こして来る。
十五分ほどで先生のマンションに到着した。
車を駐車させ、エンジンを切った先生の手が頭の上に乗せられた。
「何か言いたいことがあるのか?」
先生は鋭くて狡い。
私は聞きたいことを凄く悩んでるのに、ストレートに聞いてくる。
膝の上に置かれた両手をぎゅっと握り締め、呼吸を整える。
「先生、浮気してます?」
「は?」
「シートの位置が違うんです」