カマイユ~再会で彩る、初恋


国際線帰りだから明日は丸々一日休日らしいし、明後日は夕方発のフライト予定で昼過ぎに出社予定だから、一日半独占できる。

茜がシャワーを浴びている間に簡単なつまみを用意し、駐車場へと向かった。

彼女を不安にさせた原因。
あの日、不用意に愛車の鍵を手渡したからだ。
しかもあの後、『婚約者の話は、架空でしたよね?』と言われたっけ。
何かそう思わせるようなことを感じ取ったってことだよな?

今までもよく聞かれたことだったから、それほど気にも留めなかったけれど。
茜に言われて気付かされた。

助手席と後部座席のドアを開けて中を確認する。
『彼女』の存在を示すようなものは何もないはず。

不倫ドラマなどでよくある、アクセサリーを落とすみたいなことがあったとも思えない。
ピアスやネックレスを失くしたら、直ぐに言うような性格だし。
本革シートだから、長い髪の毛がシートに付いていることもない。

「あ…」

ダッシュボードを開けて腑に落ちた。

彼女用に用意した薄手のブランケット。
彼女と付き合い始めたのが夏だから、冷房対策で用意したものだけど。
別に色目や柄が女物というわけでもないが、ダッシュボードに入れている時点でそう感じたのかもしれない。

……他人の車の中を家探しするみたいにチェックされたこと自体に怒り心頭だ。



部屋に戻り、リビングにビールやつまみの皿を並べていた、その時。
ソファの上に置かれている彼女のスマホがブブブッと震えた。

「は……?」

通知センターからの表示で『佑人』という文字が目に飛び込んで来た。
しかも、『プロポーズ断ったんだから、見送りには』というメッセージを見てしまった。

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