カマイユ~再会で彩る、初恋
心を落ち着かせるために、風景画や静物画を何枚も何枚も描いた。
けれど、描けば描くほど、胸のざわつきが増すばかりで。
ある日、描きたい衝動を堪えるために無心で木製パネルに地塗りしていると、美術室の窓ガラスに彼女の姿を捉えた。
無心になりたいと心に強く思ったせいか。
遂に幻覚まで見えるようになったかと思った、次の瞬間。
タタタタッと走り去る靴音がした。
それからというもの、放課後に美術室に籠ると、必ず窓ガラスに彼女の姿を捉えた。
直に見たわけじゃない。
教室のドアを開けて来ることもない。
窓ガラス越しに彼女の視線を感じるだけ。
ただそれだけなのに、ざわつく心が落ち着くような感覚に陥った。
自分の渇望を満たせる唯一のひととき。
彼女の何がここまで突き動かすのか、分からなかった。
沢山の芸術品に触れて来た俺の琴線に触れた、何か。
そんな夢のような時間は、たった一年という短い時間で幕を閉じた。
「先生。卒業したら、デートしてくれますか?」
いつだったか。
いつものように休み時間に俺を取り囲む女子生徒の一人が口にした言葉。
「悪いな。卒業しても、俺にとったら教え子だよ」
何気ない言葉。
当たり障りなく、模範解答のように用意されている言葉。
卒業してゆく生徒たちをわけでだてなく捉えただけ。
恩師として頼られるなら、恩師として応えてあげられる。
けれど、『男』として望まれても、『男』として応えてあげれない。
教職に就く時に自分自身に誓った。
『教え子』は『教え子』。
卒業して成人になっても、生涯俺にとったら『教え子』だということを。
それなのに……。