カマイユ~再会で彩る、初恋
「ぅとっ、……かえ…ろッ?」
十年ぶりに聞いた声は、一瞬で十年の歳月を巻き戻した。
そして、俺の腕にぎゅっと抱きつく彼女は、大人の女性になった感触と甘く痺れるような声音を俺に向けた。
「おい、……五十嵐」
崩れ落ちるように体を預けて来る彼女を抱き留め、声をかける。
けれど、返事らしい返事はなく。
挙句の果てには自身のスカートにオペッと嘔吐した。
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「何やってんだか……」
結局、自宅に連れ帰ってしまった。
彼女が手にしていたスマホをタップしてもロックが解除できず。
ショルダーバッグの中を漁っても、自宅の場所が分かるものがなく。
吐瀉物まみれの状態を同級生たちに曝けるのも気が引けて。
取捨選択した結果、教え子を自宅に連れ帰るという前代未聞の状況に頭が痛い。
「ぅぅっ」
「あ゛っ……」
これで三回目。
どんだけ飲んだんだよ。
一度に全部吐き戻してくれればいいのに、何故か小出しにするようにされ、溜息が漏れる。
仕方ない。
意識がないやつ相手にあれこれ言っても無理な話。
寝室に連れて行き、バケツに湯を張り、タオル数枚を持って舞い戻り、常夜灯の中、服を脱がす。
「これは不可抗力だからな?……後でぐじぐじ言うなよ?」
下着姿の状態で濡れタオルで清拭し、何とかシャツを着せた、その時。
再びオペッとシャツにあらぬものが…。
「嘘だろ……」
美術の教諭資格を取る際に、児童養護施設や福祉事業所に実習で行ったことはあるし、体が不自由な方とイベントで制作したこともある。
けれど、意識があるのとないのとの違いなのか。
こんなにも体力を消耗したことがない。
何時間も絵に没頭したことはあっても、こんな風な精神的ダメージを受けたのは初めてだった。