カマイユ~再会で彩る、初恋
何でバレてたの?
ドアを開けたことは一度もないのに。
「フフッ、何で?って顔してんな」
「……どうして」
「窓ガラスに映ってたんだよ。入口ドアの所に立ってる五十嵐が」
「っっっ」
間抜けすぎる。
今さらだけど、恥ずかしい。
「でも、じゃあ何で、声かけてくれなかったんですか?」
「何でだろうな」
目の前にいる先生の視線を感じて、胸がトクトクと高鳴る。
先生が私を『五十嵐』だと、覚えていてくれたことも。
十年も前のことなのに、ちゃんと覚えていてくれたことも。
たった一年間お世話になっただけなのに。
私の人生の全てを見透かしているようなその眼差しに、胸が高鳴らないはずがない。
「食器は私が洗いますね」
これ以上は危険だ。
聞きたいことは山のようにある。
それが堰を切ったように溢れ出したら、もう可愛い教え子ではいられない。
「ご馳走様でした。とっても美味しかったです」
空になった器を手にして立ち上がる。
一秒でも早く、この家を出ないと……。
「どう致しまして」
腰を上げた先生は、私を追ってキッチンへと歩いて来る。
「それ、私が貰いますね」
「お、サンキュ」
節高の骨ばった指先が視界に映る。
ずっとこの手に優しく撫でて貰いたかった。
先生の手から器を受け取り、踵を返した、その時。
ぽふっと大きな手が頭に乗せられ、優しく撫でられた。
「っっっ……」
先生、それは反則です。
今すぐにでも帰らないとならないのに、帰りたくなくなっちゃいますから。
「珈琲よりホットミルクとかの方がいいよな。まだ胃が荒れてるだろうし」