カマイユ~再会で彩る、初恋
もしかしたら、ここはアトリエかもしれない。
英語教諭だけれども本職は美術だから、絵を描くための空間があってもおかしくない。
そうか。
だから、ここには女性の影がないのか。
日用品や雑貨に至るまで、本当に一人暮らしのような状態。
ベッド周りにしたって、女性好みのデザインのものは一つもない。
それどころか、食器戸棚を見ても、ペアグラス一つない。
仕事場にプライベートを持ち込まない主義なのかも。
……ん?
だとしたら、何故、私はここにいるのだろう?
奥様だか、恋人だかにバレないようにしただけ、……なのかな。
ダメだ。
二日酔いのような鈍い頭で考えることじゃない。
上手い具合に思考が働かず、自分のいいように考えてしまう。
「五十嵐、家、どこら辺?」
「……はい?」
「画材買いに出るついでに、送ってってやるよ」
「あ、いや……大丈夫です!」
「ついでだって言ってるだろ」
「これ以上、ご迷惑お掛けできないので!」
「強情なところは変わってないな」
「へ?」
フッと柔和な表情を浮かべた先生はカップに口を付けた。
そんな風に思われていたんだ。
何だか擽ったい。
「……いい女になったな」
突然かけられた言葉は『教え子』ではなく、私を一人の『女性』として見てるような言葉。
気まずい雰囲気を和らげるためにかけられた言葉かもしれないけれど、冗談でも嬉しくならないはずがない。
「先生は相変わらず、おモテになるようで」
どう返すのが正解なのか、分からない。
“またまたぁ~”的に返すのがよかったのか。
“うわぁ、先生でもそういうこと言うんですね~”が正しかったのか。
高校三年生の時に戻ったとしても、軽やかにかわせるスキルはなかったと思う。