カマイユ~再会で彩る、初恋


「疲れたぁ~」
「さすがにこの時期の訓練は堪えるね」

現役のCAには、資格取得訓練と資格維持訓練というものがある。
主な訓練はミールサービスやドリンクサービスなど、ビジネスやファーストなどのクラス別で必須なものと、乗務する機種別(B767、A320など)で必須なのものがあり、それらは客室乗務員資格(国内線、国際線は各々必須)に上乗せされる。
更に定期緊急総合訓練というものがあり、ライフベストの使用法や酸素マスクの装着方法を訓練したり、AEDを使った心肺蘇生法や気道確保などの医療行為の訓練も行われる。
その他にも主客室乗務員(チーフパーサー)の資格もあり、国内線、国際線とそれぞれ取得し、有する者は毎年訓練を受けて資格を更新しなければならない。


今日は仲のいい後輩の佳歩と、定期緊急総合訓練の実技訓練を受けた。

七月下旬の訓練は、空調が効いている室内で行われているとはいえ、数十分もの心肺蘇生訓練をこなせば、嫌でも汗が滴り落ちる。
訓練着はASJのロゴが入ったつなぎで、もちろん長袖だ。
下に着ているTシャツが汗でびっしょりと濡れていて、肌に張り付くそれを脱ぐだけでだいぶ不快感が拭えた。

「そう言えば、例の先生との件、どうなったんですか?」
「どうって、……別に何も起きてないけど」
「は?……まさかとは思いますけど、放置してます?」
「……放置というか、何も起こす気ないんだけど」
「呆れた……。先輩、戦国時代の武将の娘だって、閨房(けいぼう)の心得くらいありますよ」
「っっ……、いやいや、そもそもそういう仲じゃないし」

更衣室で着替えをしながら、佳歩ちゃんの恋愛論を聞かされる。

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