カマイユ~再会で彩る、初恋
先生とこんな風に仕事の話をする日が来るとは思ってもみなかった。
受験生だった高校三年のあの当時、私は航空関連の仕事に就きたくてエアライン系が学べるビジネス実務学科のある外国語短大を志望した。
「先生は今、クラスの受け持ちしてるんですか?」
「いや、今年はしてない」
「そうなんですね」
「ん」
陽が沈みかけ、対向車のヘッドライトに照らされたハンドルを握る先生の横顔が物凄くカッコよく見える。
「暑いな。ちょっとエアコン強めてもいいか?」
「はい、どうぞ」
走って来たからだろう。
汗が引かないのか、さっきからYシャツを抓んでパタパタと翻している。
「えっ…?」
「ん?……どうした?」
今真横にいる先生の胸元には、チェーンらしきものが無い。
いや、上半身裸の先生もつけてなかったよね。
十年前は毎日のように首にしていて、女子生徒が言い寄るとすかさずチェーンに通された指輪をチラつかせてたのに。
どういうこと?
今日はたまたまつけてないってこと?
あ、違うのか。
今日迎えに来た時点で、本来ならあり得ない出来事だ。
だからあんなにも違和感をずっと拭えなかったんだもん。
先生から待ち合わせの返信が来て、すっかり失念してた。
「あの、……先生」
「ん?」
「……指輪、してないんですね」
「………」
僅かに私の方に顔を傾けていた先生が、真顔になって視線を真っすぐ前に固定した。
それはまるで、触れてはいけないことに触れたのだと言われているようで。
『結婚したんですか?』と聞いているのと同じだ。
指輪の所在を聞くだなんて。
「ごめんなさい。聞かなかったことにして下さい」
気まずくなって視線を窓の外に移した。