カマイユ~再会で彩る、初恋
約束の日。
五十嵐を迎えに行って、祥平が予約してくれたレストランへと向かう車内。
祥平が懸念していた質問が向けられた。
「指輪って、俺が首にしてたやつだよな」
「……はい」
質問自体がタブーだと思ったようで、あからさまに視線が逸らされた。
いや、俺がそうさせるような態度を取ったからか。
祥平が言うように、今日は絶好のチャンスだと思う。
過去との決別とも言える機会だろうから。
俺は意を決して口を開いた。
「お前の担任だった頃は、『婚約者』がいると言ってただろ」
「……はい」
「実はあれ、嘘だから」
「へ?」
「婚約者もいなければ、彼女もいなかったんだ」
「……何でそんな嘘吐いたんですか?」
「あの当時は教職に就いて間もない時期だったし、俺も若かったしさ。生徒とそういう関係になるのはタブーだから、ちゃんと境界線をきっちり引きたかったって理由なんだけど。まぁ、それが結構いい具合に広まって、仕事もし易かったし」
「……そうだったんですね」
「ん」
心の奥に蟠っていたものの一つがやっと解けた気がした。
「確かに先生は飛び抜けてカッコよかったですし、女子に限らず男子にも人気でしたしね」
個人的な好意じゃなくても、やっぱり五十嵐の口から『カッコいい』と言われたら嬉しくなる。
この子の目に、俺がどんな風に映っていたのか。
今だから聞けるというのもある。
「じゃあ、今でも学校では指輪してるんですか?」
「ん、してるよ」
「そうなんですね」