カマイユ~再会で彩る、初恋

指輪をしているのかという質問じゃなくて、『今は彼女いないんですか?』って聞いて欲しいのに。
いや、彼女からしたら俺なんてオッサンだよな。

恩師と教え子。
あの日のお詫びとお礼に食事に付き合うだけ。
きっとそういう気持ちで来ているのは分かっている。
けれど、一%でも可能性があるなら、どうにかして手繰り寄せたい。

「ちなみにあの指輪は、母親の形見なんだ」
「へ?」
「俺が十五歳の時に亡くなって、その時にしていた指輪なんだ」
「そうだったんですね」
「ん、だから肌身離さずつけてても、俺的には違和感ないというか。サイズ的に指に出来ないし」
「あぁ、なるほど。……じゃあ、今日は?」
「鞄の中に入ってる」
「わざわざ取らなくてもよかったのに」
「そう言って貰えると、心が軽くなるな」

気まずそうに窓の外に視線を向けていた彼女が、体ごと俺の方に向いてくれている。
ただそれだけで、嬉しくて。
母親のことを教え子に話したのは初めてだが、その相手が五十嵐でよかったと思う。

「一つ質問していいですか?」
「……何?」
「今まで誰一人として教え子に個人的な連絡先教えなかった先生が、私に教えた理由って何ですか?」
「……直球な質問だな」

相変わらずしれっと質問して来るな。
昔から五十嵐は飾り気のない言葉でまんま質問して来るタイプ。
黒々とした大きな瞳が真っすぐと向けられ、何を考えているのか分からないことも多かった。
女の子として期待するような眼差しでもなく、自信に満ち溢れた瞳でもなく。
だからこそ、その瞳が何を捉えているのか気になって仕方なかった。

「その質問の答え、送り届ける時でいいか?」
「……はい」
「ごめんな?」

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