カマイユ~再会で彩る、初恋

バーのカウンターに突っ伏して、反省会のように気落ちする。
恋愛自体を拒否し続けて来たつけが、纏めてドンっと一気に押し寄せて来た状態。
いい歳して、自分でどうしていいのか分からない。

「それ、口付けた?」
「……ん?」

頭上に祥平の声が掛けられ、ゆっくりと顔を持ち上げる。

「……いや、まだ」
「じゃあ、俺が貰うな」
「あ?」
「今ならまだ間に合うだろ。一口も飲んでないなら」

祥平の人差し指が、カウンターの上に置かれたスマホと車のキーを指差す。
それは、『飲酒してないなら間に合うぞ』とアドバイスしてくれているわけで。

「うじうじ悩む暇があったら、ガンガンアピれよ。盛ってる若い奴に掻っ攫われても知らねーぞ」
「っ……」

いつもここに来るとオーダーするフラーズビール。
イングランドを代表するエールビールで、炭酸の口当たりは優しいがコクと香りが強く、飲めるバーは少ない。

「……何て誘い出せばいい?」
「思ったままメールすりゃあいいだろ。……会いたいって」

それが出来たら悩まねーよ。
メールを打とうとスマホを立ち上げるが、勇気が足りなくて、再びカウンターテーブルに突っ伏す。
俺も祥平みたいに、思うままに行動できたらいいのに。

十年前より重症らしい。
『教師』という強制リセットする魔法が使えなくなった今。
己の感情を制御するにも、整理するにもHPが一気に激減する。

「ほれ、後は自分で何とかしろよ?」
「……あ?」

祥平の言葉の意味を辿ろうと顔を持ち上げると、五十嵐とのトーク画面が目の前に。

「ッ?!!おいっ、お前何やってんだよっ!」
「何って、お前の代わりに送ってやったんじゃん。……あ、既読になった」
「っっっ」

『今から会いに行ってもいい?さっき送り届けた場所で待ってる』と打たれた文字に釘付けになった。

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