カマイユ~再会で彩る、初恋
助手席の窓ガラスをコンコンと軽く叩く。
先生は腕組をして目を閉じていた。
メールが送られて来てから三十分も経っている。
ドアロックが解除され、運転席から腕を伸ばしてドアを開けてくれた。
「遅くなってすみません。……それと、返信もせずに」
「いや、もう寝てるかな?と思ったし、無理言ってるのは俺の方だから気にするな」
「……既読スルーしたのを、怒らないんですか?」
「え?……あぁ、全然」
車に乗り込み、チラッと視線を横に向けると。
「寝ぼけて開いたってことも考えられるし」
「……」
「冗談だと思った?」
「……はい」
「そっか」
先生はフッと柔らかい笑みを溢した。
「ホント言うと、あれ送ったの、俺じゃないんだ」
「……へ?」
「親友がやってるバーにいたんだけど、……痺れを切らしたそいつが勝手に送ったんだよ」
「え……そうなんですか?」
「ごめんな、こんな時間に呼び出して」
「いえ、それは全然構わないんですけど。……えっ、じゃあお酒飲んでるんじゃ?」
「あ~いや、一滴もまだ飲んでなかったから」
「……本当ですか?」
「信じられない?」
「……いえ」
「その顔、信じてないだろ」
カーナビの液晶パネルのライトに照らされた先生の顔が大人の男性の色気があって、ドキッとしてしまう。
飲酒運転をするような人じゃないのは分かってる。
教え子に連絡先を一切公開しない徹底ぶりから、真面目な人だということは分かってるから。
そういうことじゃなくて、先生の交友関係がほんの少し知れた優越感が、私の心に驚きを与えている。
些細なことなのに、嬉しくて堪らない。
例え友達のお節介だとしても、他の誰でもなく、自分に連絡をして貰えたことに。
「これなら、……飲んでないって分かる?」
「ッ?!!」
鼻先がちょんっと触れ合うほどに、先生の顔が近づいた。