カマイユ~再会で彩る、初恋
「わわわっ、分かりましたからっ!!」
頬に先生の吐息がかかり、物凄い速さで心臓が暴れ出す。
両手を伸ばして先生の肩を押し返えそうとすると、先生はそんな私の耳元にそっと呟いた。
「このまま、攫ってもいいの?」
「ひぇっ…?」
魅惑的な視線に囚われる。
先生の言動一つ一つに頭がついていかない。
急に距離を詰めて来たのも、口説くような言葉にも。
全てに違和感があって、私の知っている先生とはかけ離れているから。
「先生、……やっぱり、酔ってますよね?」
そうだよ、そうに違いない。
酔ってるなら理解できるけど、素面であんなことを言う先生なんて想像がつかないもん。
「ちょっと待って下さいね、今代行を呼びますんで」
千奈や佑人たちと飲む時にいつも使っている代行会社へ予約を入れようとアプリを立ち上げた、その時。
手にしているスマホがスッと取り上げられ、節高の骨ばった長い指先が後頭部へと伸びて来て、グイっと頭が引き寄せられた。
ふわっと仄かにベルガモットとレモンが香り立つ香水の匂い。
視界に映る長い睫毛。
黒々とした瞳に私が映る。
今にも唇が触れ合う距離なのに、後ろ首を支える指先に更に力が込められた。
―――キス、されるの?
夢か現実か分からないけれど、あまりにも美しすぎる美顔に押し負けた私はぎゅっと瞑った。
けれど、数秒経っても何も起きない。
もしかして、揶揄われてる?
そう言えば、呼び出したのも先生じゃないって言ってたっけ。
だとすると、今二人きりになっているのも先生の意志じゃないってことだよね。
冷静になって改めて考え、不本意な成り行きなのだと理解できた。