カマイユ~再会で彩る、初恋
その反応は反則だろ。
いや、男を喜ばす手管を持っているのか。
……そんな風には思いたくないが。
キスをした感じでは、未経験という感じには思えない。
年齢と見た目と職業から察して性格をプラスしたとしても、全く無知というわけではないだろう。
今までどんな風に女性に触れてたっけ?
久しぶりすぎて、感覚が鈍る。
それに、『お前、“先生”って呼ばれてるんだな』という祥平の言葉がグサッと刺さった。
言葉の通り、教師と生徒だったんだから“先生”と呼ばれることに間違いはないけれど。
卒業しても“教え子”だから、“先生”と呼ばれるのが当たり前だと思っていたし、そう仕向けて来た。
教え子とは絶対に一線を越えたりしない。
男子生徒であっても、教え子との境界線は明確にして来た。
それだけに、彼女だけ“特別”だと言ったところで、現実味がないように思われそうだ。
雰囲気に流されてキスしただけかもしれない。
俺が誘ったから、デートをしてくれたのかもしれない。
拒否できないような感じに返答を仕向けたようなものだから、正直なところ、どう思ってるのだろう?
聞きたいけれど、怖くて聞くことすら出来ない。
本当に情けない。
三十五歳にもなって。
十代の頃の自分が別人に思える。
「先生、……何か、考え事ですか?」
「ん?………何でもない」
無意識に眉間にしわを寄せていたらしい。
彼女が顔を覗き込んで来た。
服や日用品を置いてもいいと許可した時、彼女が嬉しそうな表情をした。
だから、今は少しだけでもいい方に捉えておくか。