カマイユ~再会で彩る、初恋

元々口数が多い人じゃないから、何でもかんでも言葉にして貰えるとは思ってない。
それでもやっぱり、初めて関係を持つ時くらい『好き』くらいは言われたい。

『茜』と呼ばれるだけでも十分なんだろうけど。
人間って、つくづく欲張りな生き物だ。

一つを得たら、もう一つ欲しくなる。
何もない時は、たった一つが欲しくて我慢できてたのに。
一つを手にした途端、次から次へと欲が出る。

「先輩は言ったんですか?」
「何を?」
「『好き』って」
「……言ってない」
「自分からは言わないで、相手からは欲しいって、ホント我が儘ですよ」
「……うん」
「デートに誘ってくれて、家に呼んで貰って、お泊り許可貰えたんだから、せめて『好き』くらいは先輩からしましょうよ。子供じゃないんだから」
「………ん」

佳歩ちゃんの言うとおりだ。
ベッドの中で触れてもいいと許可したのは私なのに、いざとなったらダメだと拒否してしまった。
恥ずかしがるような歳でもないのに、なに可愛い子ぶったんだろう。

二日経って、今頃冷静になって来た。

「次、いつ会うんですか?」
「三日後の乗務後に会うことになってる」
「じゃあその時に、ちゃんと誤解解いて来て下さいね」
「……うん」
「先輩、そろそろ食べないとブリーフィングに遅刻しますよ?」
「えっ?!大変っ」

腕時計を確認して慌ててカレーライスを口にする。

「あ、そうだ。夏休み先延ばしにして、有給と合わせて十月にハワイに行って来ます!」
「えっ、何それ」
「この間知り合った彼が、ハワイに家持ってるらしくて。十月なら仕事が落ち着くからって」
「……展開が早くて頭が追い付かないんだけど」

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