カマイユ~再会で彩る、初恋

静寂の中に響く無機質な受信音。
筆を持ったまま、左手でポケットからスマホを取り出し、それを立ち上げて固まった。

『何料理でも構いません。先生の作る料理なら』

お寿司だとか、パスタだとか、食べたいお店だとか返信来るものだと思い込んでいた俺は、五十嵐からの返信にたじろぐ。

「ホント、予想の斜め上辺りを行くんだよな…」

いい意味で俺の予想をぶち壊しに来る。
嬉しいなんて言葉じゃ言い表せないくらい、心は彼女を渇望してるから。

『良さそうなものを幾つか作っておくな』
当たり障りのない簡素な文で送り返す。

本当は、何を作って欲しい?
どういう味が好み?だとか、延々とやり取りしたいところだけど、きっともう休む時間だよな。

零時を回ろうとしていて、事前に貰っているスケジュール表には九時十五分仁川発の羽田行きとなってる。
乗務前に事務的な打ち合わせだとか、チーフパーサーは機長たちとの打ち合わせもあると聞いてるし、海外だと通常業務以外に現地のスタッフとのコミュニケーションも大事だと聞かされている。

「仕事をしてる姿、見てみたいな」

きっと制服が似合っていて、男性客にモテるんだろうな。

スタイル抜群だし、顔は美人だし。
色気もあって、仕事もできるイイ女ならきっと目に付くはず。

週末の休みの時に、こっそり彼女が乗務する便のチケットでも買おうかな。
往復便の航空券を買って、数時間の上空デートも悪くない。
……って、これじゃ完全にストーカーか。

二日会わないだけで、会いたい病が発病するほど重症らしい。

< 89 / 177 >

この作品をシェア

pagetop