カマイユ~再会で彩る、初恋


「では、他に無ければこれで終わりにします。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「五十嵐チーフ、お疲れ様でした」

仁川空港から羽田へと戻って来たクルーは降機後にデブリーフィングを終え、チーフ報告書を作成する。
チーフパーサーとして乗務すると必ずこの報告書を作成しなければならない。

CAとして乗務するだけなら、常務前のブリーフィングと降機後のデブリーフィングだけでいいが、チーフパーサーとなるとそれに責任者としての職務と操縦士とのコミュニケーションも必須となる。

乗客が搭乗する前に機内で操縦士とブリーフィングすることもあるし、降機後に事務所で顔を合わせるとちょっとした反省会のような会話をすることもある。
気候や状況は常に変動し、クルーもまた一つとして同じ乗務(環境)ではない。

報告書を書き終え、それを提出して次の業務に取りかかる。
今日はこの後に国内線の往復乗務が入っているからだ。

乗務予定の便の気象条件などを確認していると。

「五十嵐さん、今ちょっと時間いいかな?」
「あっ、はい」

この後、乗務予定の福岡便を担当する財前(ざいぜん)機長(キャプテン)が声をかけて来た。
CAとは別に、操縦士も同じように乗務前にブリーフィングを行う。

ASJの国内線出社時間は搭乗時間の一時間ニ十分前。
けれどそれは最低時間であって、誰しもその時間前には出社し、必要な準備を始めている。

既に国際線の乗務を終え、出社扱いになっている私は、福岡便十五時四十分発の打ち合わせまで時間が空いている状態。
その間に昼食を済ませ、打ち合わせに必要な情報を得ておくのだけれど。

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