カマイユ~再会で彩る、初恋
「実は冬のキャンペーンの企画で『なりきりCA体験』というものがあって、現役チーフに体験教室の教官役をして貰うことが決定していて…。そのスケジュールと企画の詳細がこれになるんだが」
「……もしかして、その教官役が私ですか?」
「そうだ。君だけでなく、数名担当して貰うんだが、岩瀬(客室訓練部の教官でCAの頂点に立つ人物)の推薦だから、引き受けてくれると助かる」
岩瀬教官は私がCAとして採用された時、新人訓練の担当教官で、チーフパーサーの資格を取る際にも凄くお世話になった。
定期的に行われる訓練でも顔を合わせることもあるし、茜が尊敬している人物でもある。
所作が優雅で礼節をとても大事にし、声掛け一つとっても聞き流す言葉一つとしてない。
会話の中に必ず自身の経験談を織り交ぜ、相手にスッと寄り添う姿勢がカッコよくて。
ガミガミと金切り声で注意する教官もいる中で、彼女の存在は別格だ。
「僭越ながら、引き受けさせて頂きます」
「そう言って貰えると助かるよ。後日、詳しい打ち合わせの会議があり、その連絡も近々行くと思う」
「はい、承知しました」
「それと、この後の福岡便も宜しく」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「では、また機内で」
「はい」
乗務前だけれど、彼はまだスーツ姿のまま。
今はまだ本部長の仕事をしているのだろう。
経営と運行業務、全くの別物なのにそれを顔色一つ変えずに切り替えるだなんて、本当に凄い人だ。
彼が颯爽と客室センター(打ち合わせやスケジュールを管理する場所)内を出て行った瞬間、その場にいる事務スタッフ達が安堵の溜息を漏らした。