カマイユ~再会で彩る、初恋
「九月でも海に入れるのか?」
「お天気がよければ入れると思います」
「……そうなんだ」
「行って欲しくないですか?」
「いや、……それは別に構わないんだが」
さすがにこの歳で、『例え友達でも水着姿になるな』とは言えない。
七歳も年下の、しかも教え子相手に嫉妬心丸出しなんてダサすぎる。
けれど、俺ですら見たことないのに……。
いや、違うか。
あいつらは、毎年のように見て来たのかもしれない。
俺が知らないだけで。
俺が勤務する高校には、プールがない。
都内でも名門私立校というのもあって、結構何でも揃っているが、プールだけはない。
だから、俺は今まで彼女の水着姿を一度だって目にしたことはない。
「先生」
「ん?」
「こういう時女の子は、『行くな』って言って欲しいものなんですよ?」
「……だよな」
「そりゃあ、ナンパされるような若さはもう無いかもしれないですけど、これでも結構モテる方なんですよ?」
「知ってる」
知ってるよ、そんなこと。
同級生に限らず、上のやつも下のやつもお前を狙ってる奴は腐るほどいたよ。
というより、お前が告白される現場を見たことが何度もある。
その度に、『あいつが彼氏になるのか』と何度となく思い知らされたくらいだ。
「あっ、佑人からだ。……出てもいいですか?」
「……ん、いいよ」
ブブブッと震えた彼女のスマホ。
着信画面が『佑人』となっていた。
リビングから廊下に出て行った彼女を視界に捉える。
俺はあのスマホに、何て登録されているのだろう?
恐らく『先生』だろうな。
口にするのも目で見るのも、『先生』か。