魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
新しい家2
セシリアスタに案内されながら、大きくて広い廊下を歩いていく。迷いそうになる広さに、圧倒させられる。そんなレティシアを、セシリアスタは微笑みながら見つめていた。
「此処が、君の部屋だ」
純白のドアを開け、セシリアスタに入るよう促される。
「わあ……っ」
クォーク邸にあった自室の倍もある広さ、家具はシンプルながら淡いピンクで小さな花がワンポイントにあしらわれたものに統一されている。すぐ隣にはドアを隔てて浴室も完備されていた。バスタブも家具と統一されてある。
「こんな素敵な部屋、本当に私が使ってもよろしいのでしょうか……?」
振り返り、不安げに見上げるレティシア。そんな彼女に、セシリアスタはパーティーの時にみたあの笑みを向けてきた。
「これは気の為に誂えたものだ。寧ろ使ってくれないと困るな」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、セシル様」
私の為……その言葉が嬉しくて、レティシアは満面の笑みを向ける。セシリアスタが目を見開き、視線を逸らした。頬が若干赤くのなったのは気の所為だろう。
「セシリアスタ様」
後から入ってきたアティカに「どうした」と声をかけるセシリアスタ。アティカは小さく溜息を吐きながら、言葉を告げる。
「やはり急にお迎えに上がったのは早計でしたのでは? レティシアお嬢様の荷物はこんなものしかありませんし、従者だって連れてきたのは一人だなんて……」
そう言って、足元を見やる。大きな鞄二つに、小さな鞄一つ。カイラの荷物も、鞄一つだ。
「あ、それで十分です。私が用意したものなので」
「は?」
レティシアの言葉に、セシリアスタが割り込む。細められた目を向けられ、レティシアは困惑した。
「その……、元から私のものというのはあまり無くて、気に入っているものだけを鞄に詰め込んだんです」
レティシアの言葉に、アティカの目が光る。慌てて、カイラが割り込んだ。
「発言を失礼します。その、お嬢様の従者は幼い頃から私一人です。荷物も、失礼ながら王都で自費で揃えようとのお考えでした」
「従者があなた一人? それに自費で揃えるだなんて、そもそもお金を持っているの?」
「アティカ」
セシリアスタが強い口調で名を呼ぶと、アティカの問答が止まった。「失礼いたしました」と頭を垂れるアティカに、レティシアは慌てて話しかける。
「顔をあげてください、アティカさんっ。アティカさんの仰ることは事実ですから」
話したくなかったが、仕方ない――。レティシアは重い口を開いた。
「私の服もドレスも、全て妹のお下がりなんです。だから、自分で直した服だけを持ってきたんです」
その言葉に、セシリアスタの表情が変わる。それに気付かないレティシアは、アティカへと言葉を続ける。
「だから、『不良品』の私が唯一出来る魔石生成で魔石を作って、それを売ったお金で服を用意しようと考えてました。私の従者がカイラ一人なのも、事実なんです。マーキス辺境伯の元に嫁ぐと思っていたので、必要最低限の荷物しか用意してなかった私の不手際です……」
すみません、と謝るレティシアに、アティカは何も言えなくなる。ハッと何かに気付いた素振りをするアティカに釣られて振り向くと、表情の硬くなったセシリアスタがいた。何故か、魔力を放出している。
「セシリアスタ様、落ち着いてくださいっ」
「……落ち着いている」
「魔力放出している時点で落ち着いてません!」
アティカの言葉も通じず、更に魔力が放出される。放出される魔力が桁違いだ。レティシアは慌ててセシリアスタに近付く。
「セシル様、落ち着いてくださいっ」
「だから、落ち着いているといっているだろう」
無表情で語るセシリアスタだが、こんな大きな魔力を放出されれば、周りにも被害が及ぶ筈だ。レティシアは落ち着くようにと宥める。
「私の発言が気に障ったのならば謝ります。ですから、気を静めてください」
レティシアの一言に、セシリアスタは一呼吸置き、小さく息を吐いて放出していた魔力を静めた。ホッとしたのも束の間、突然、セシリアスタに抱き着かれた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
突然の行動に、レティシアの頬が赤くなった。心臓が飛び出しそうなくらい飛び跳ねている。そんなレティシアにお構いなく、セシリアスタはアティカに言葉を発する。
「アティカ。エドワースに告げろ。午後の公務は無しだ」
「と言いますと?」
「午後はレティシア嬢の服を見繕う。勿論、カイラのもだ」
セシリアスタの発言に驚くレティシア。だが、一番驚いたのはカイラだった。
「わ、私もですか!?」
「カイラのはアティカ、お前が選んでやれ。これからは互いにレティシア嬢の世話を任せる。親睦も深めておけ」
「承知いたしました」
驚きを隠せないカイラを余所に、話が進んでいく。レティシアは抱き締められながら慌ててセシリアスタに声を発する。
「そんな、恐れ多いです! 自分でどうにかできますっ」
「レティシア」
敬称なしで、名を呼ばれる。至近距離で真っすぐ視線を重ねられ、更に頬が赤くなっていく。
「これは私の我侭だ。どうか、その我侭を叶えて欲しい」
「~~~~っ」
美貌の青年に目尻を下げ、首を傾げられては断りたくても断れない。レティシアは耳まで真っ赤に染めながら、小さく頷くしか出来なかった。
「此処が、君の部屋だ」
純白のドアを開け、セシリアスタに入るよう促される。
「わあ……っ」
クォーク邸にあった自室の倍もある広さ、家具はシンプルながら淡いピンクで小さな花がワンポイントにあしらわれたものに統一されている。すぐ隣にはドアを隔てて浴室も完備されていた。バスタブも家具と統一されてある。
「こんな素敵な部屋、本当に私が使ってもよろしいのでしょうか……?」
振り返り、不安げに見上げるレティシア。そんな彼女に、セシリアスタはパーティーの時にみたあの笑みを向けてきた。
「これは気の為に誂えたものだ。寧ろ使ってくれないと困るな」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、セシル様」
私の為……その言葉が嬉しくて、レティシアは満面の笑みを向ける。セシリアスタが目を見開き、視線を逸らした。頬が若干赤くのなったのは気の所為だろう。
「セシリアスタ様」
後から入ってきたアティカに「どうした」と声をかけるセシリアスタ。アティカは小さく溜息を吐きながら、言葉を告げる。
「やはり急にお迎えに上がったのは早計でしたのでは? レティシアお嬢様の荷物はこんなものしかありませんし、従者だって連れてきたのは一人だなんて……」
そう言って、足元を見やる。大きな鞄二つに、小さな鞄一つ。カイラの荷物も、鞄一つだ。
「あ、それで十分です。私が用意したものなので」
「は?」
レティシアの言葉に、セシリアスタが割り込む。細められた目を向けられ、レティシアは困惑した。
「その……、元から私のものというのはあまり無くて、気に入っているものだけを鞄に詰め込んだんです」
レティシアの言葉に、アティカの目が光る。慌てて、カイラが割り込んだ。
「発言を失礼します。その、お嬢様の従者は幼い頃から私一人です。荷物も、失礼ながら王都で自費で揃えようとのお考えでした」
「従者があなた一人? それに自費で揃えるだなんて、そもそもお金を持っているの?」
「アティカ」
セシリアスタが強い口調で名を呼ぶと、アティカの問答が止まった。「失礼いたしました」と頭を垂れるアティカに、レティシアは慌てて話しかける。
「顔をあげてください、アティカさんっ。アティカさんの仰ることは事実ですから」
話したくなかったが、仕方ない――。レティシアは重い口を開いた。
「私の服もドレスも、全て妹のお下がりなんです。だから、自分で直した服だけを持ってきたんです」
その言葉に、セシリアスタの表情が変わる。それに気付かないレティシアは、アティカへと言葉を続ける。
「だから、『不良品』の私が唯一出来る魔石生成で魔石を作って、それを売ったお金で服を用意しようと考えてました。私の従者がカイラ一人なのも、事実なんです。マーキス辺境伯の元に嫁ぐと思っていたので、必要最低限の荷物しか用意してなかった私の不手際です……」
すみません、と謝るレティシアに、アティカは何も言えなくなる。ハッと何かに気付いた素振りをするアティカに釣られて振り向くと、表情の硬くなったセシリアスタがいた。何故か、魔力を放出している。
「セシリアスタ様、落ち着いてくださいっ」
「……落ち着いている」
「魔力放出している時点で落ち着いてません!」
アティカの言葉も通じず、更に魔力が放出される。放出される魔力が桁違いだ。レティシアは慌ててセシリアスタに近付く。
「セシル様、落ち着いてくださいっ」
「だから、落ち着いているといっているだろう」
無表情で語るセシリアスタだが、こんな大きな魔力を放出されれば、周りにも被害が及ぶ筈だ。レティシアは落ち着くようにと宥める。
「私の発言が気に障ったのならば謝ります。ですから、気を静めてください」
レティシアの一言に、セシリアスタは一呼吸置き、小さく息を吐いて放出していた魔力を静めた。ホッとしたのも束の間、突然、セシリアスタに抱き着かれた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
突然の行動に、レティシアの頬が赤くなった。心臓が飛び出しそうなくらい飛び跳ねている。そんなレティシアにお構いなく、セシリアスタはアティカに言葉を発する。
「アティカ。エドワースに告げろ。午後の公務は無しだ」
「と言いますと?」
「午後はレティシア嬢の服を見繕う。勿論、カイラのもだ」
セシリアスタの発言に驚くレティシア。だが、一番驚いたのはカイラだった。
「わ、私もですか!?」
「カイラのはアティカ、お前が選んでやれ。これからは互いにレティシア嬢の世話を任せる。親睦も深めておけ」
「承知いたしました」
驚きを隠せないカイラを余所に、話が進んでいく。レティシアは抱き締められながら慌ててセシリアスタに声を発する。
「そんな、恐れ多いです! 自分でどうにかできますっ」
「レティシア」
敬称なしで、名を呼ばれる。至近距離で真っすぐ視線を重ねられ、更に頬が赤くなっていく。
「これは私の我侭だ。どうか、その我侭を叶えて欲しい」
「~~~~っ」
美貌の青年に目尻を下げ、首を傾げられては断りたくても断れない。レティシアは耳まで真っ赤に染めながら、小さく頷くしか出来なかった。