魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
幸せな時間
「……ありがとうございます、セシル様」
今出来る最大の感謝を。そう思いながら、レティシアは微笑んだ。すると、セシリアスタの動きが止まる。
「セシル様?」
不思議に思い、レティシアは顔を寄せ顔を覗き込む。次第に赤くなっていくセシリアスタの顔を見て、買い物に付き合わせて具合が悪くなったのではと心配になる。
「セシル様、大丈夫ですかっ」
慌てて、額に手を添える。良かった、熱はないわ。ホッとしたレティシアに対し、セシリアスタは益々頬を紅潮させていった。
「だ、大丈夫だ……っ」
サッと顔を背けるセシリアスタに、レティシアは不安そうに見つめる。
「本当に、大丈夫ですか? ご無理をなさっているのでは……」
「大丈夫だ、心配は要らない」
そうは言うが、セシリアスタは後ろを向いたままだ。レティシアは心配になり、セシリアスタの前に回り込む。すると、セシリアスタは反対方向を向いてしまう。
「セシル様、本当に大丈夫なのですか? 不安で仕方がないです……」
「本当に大丈夫だ。心配しないでくれ、レティシア嬢」
尚も顔を見せてくれないセシリアスタに、レティシアは俯く。そんな二人を見かねて、オリビアはセシリアスタに話しかける。
「若旦那さま、婚約者さまに敬称をつけるのは如何なものかしら。呼び捨て、もしくは愛称で呼んであげればいかが?」
「呼び捨て……」
顔を背けていたセシリアスタが、顔を上げオリビアに視線を向けた。レティシアもオリビアの意見に賛同し、セシリアスタの前に立ち言葉を発する。
「セシル様、どうぞ私のことは好きに呼んでください」
見上げるレティシアに、セシリアスタは目を瞬かせた。そして、小さな声でレティシアの名を呼んだ。
「……レティシア」
「はい、セシル様」
名を呼ばれ、レティシアは微笑む。セシリアスタも、レティシアに小さく微笑み返した。そんな初々しい二人を見つめながら、オリビアは満面の笑みを浮かべていた。
「またのお越しを~」
オリビアの声を背に聞きながら、セシリアスタとレティシアは店を出る。すると、既にカイラとアティカが待ち合わせの馬車の前で待っていた。
「あ、お嬢様!」
「カイラ、そっちも終わったの?」
レティシアの言葉に、カイラは笑みを浮かべながら持ってきていた鞄を叩いた。
「はいっ、アティカさんお薦めのお店も教えて貰えましたし、十分楽しめました!」
にっこりと笑みを浮かべるカイラを余所に、アティカは巾着をセシリアスタに返す。
「そっちも満喫できたようだな」
「感謝いたします」
返された巾着を懐に戻し、セシリアスタはキャリッジに乗り込む。
「レティシア」
「はい、セシル様」
差し伸べられた手を取り、キャリッジに乗り込む。今日の馬車はアティカが手綱を握っていたのもあり、カイラはアティカと共に御者台に乗り込んだ。
馬車がゆっくりと走り出す。微かな振動に揺られながら、向かいに座るセシリアスタを見た。セシリアスタは窓の外を見ており、その横顔は夕焼けに染まり美しかった。
「……どうした?」
レティシアの視線に気付き、セシリアスタは振り返る。レティシアはセシリアスタに見惚れていたなんて言えず、言葉を濁す。
「いえ、その……今日はありがとうございました」
礼も言ってなかったと思いだし、レティシアは深々とお辞儀をする。そんなレティシアに、セシリアスタは微笑みながら答える。
「気にするな。私がしたかったことをしたまでだ」
そうは言われても、仕事を休ませてまで買い物に付き合わせてしまったのは事実。そこでふと、疑問が生じた。
「あの、今日のお仕事は休んでも大丈夫だったのでしょうか……?」
「構わん。半日が一日になっただけだ」
その一言に、ホッと安堵する。今日は朝から怒涛の一日だった。夢でも見ているのではないかと、頬を抓った。うん、痛いわ――。
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
痛みに耐えながら、セシリアスタに微笑み返すレティシア。夢ではない。約束も、叶ったのだ。
「セシル様」
「どうした」
「これから、どうぞよろしくお願いいたします」
改めて挨拶をするレティシアに、セシリアスタは「ああ」と小さく囁いた。
今出来る最大の感謝を。そう思いながら、レティシアは微笑んだ。すると、セシリアスタの動きが止まる。
「セシル様?」
不思議に思い、レティシアは顔を寄せ顔を覗き込む。次第に赤くなっていくセシリアスタの顔を見て、買い物に付き合わせて具合が悪くなったのではと心配になる。
「セシル様、大丈夫ですかっ」
慌てて、額に手を添える。良かった、熱はないわ。ホッとしたレティシアに対し、セシリアスタは益々頬を紅潮させていった。
「だ、大丈夫だ……っ」
サッと顔を背けるセシリアスタに、レティシアは不安そうに見つめる。
「本当に、大丈夫ですか? ご無理をなさっているのでは……」
「大丈夫だ、心配は要らない」
そうは言うが、セシリアスタは後ろを向いたままだ。レティシアは心配になり、セシリアスタの前に回り込む。すると、セシリアスタは反対方向を向いてしまう。
「セシル様、本当に大丈夫なのですか? 不安で仕方がないです……」
「本当に大丈夫だ。心配しないでくれ、レティシア嬢」
尚も顔を見せてくれないセシリアスタに、レティシアは俯く。そんな二人を見かねて、オリビアはセシリアスタに話しかける。
「若旦那さま、婚約者さまに敬称をつけるのは如何なものかしら。呼び捨て、もしくは愛称で呼んであげればいかが?」
「呼び捨て……」
顔を背けていたセシリアスタが、顔を上げオリビアに視線を向けた。レティシアもオリビアの意見に賛同し、セシリアスタの前に立ち言葉を発する。
「セシル様、どうぞ私のことは好きに呼んでください」
見上げるレティシアに、セシリアスタは目を瞬かせた。そして、小さな声でレティシアの名を呼んだ。
「……レティシア」
「はい、セシル様」
名を呼ばれ、レティシアは微笑む。セシリアスタも、レティシアに小さく微笑み返した。そんな初々しい二人を見つめながら、オリビアは満面の笑みを浮かべていた。
「またのお越しを~」
オリビアの声を背に聞きながら、セシリアスタとレティシアは店を出る。すると、既にカイラとアティカが待ち合わせの馬車の前で待っていた。
「あ、お嬢様!」
「カイラ、そっちも終わったの?」
レティシアの言葉に、カイラは笑みを浮かべながら持ってきていた鞄を叩いた。
「はいっ、アティカさんお薦めのお店も教えて貰えましたし、十分楽しめました!」
にっこりと笑みを浮かべるカイラを余所に、アティカは巾着をセシリアスタに返す。
「そっちも満喫できたようだな」
「感謝いたします」
返された巾着を懐に戻し、セシリアスタはキャリッジに乗り込む。
「レティシア」
「はい、セシル様」
差し伸べられた手を取り、キャリッジに乗り込む。今日の馬車はアティカが手綱を握っていたのもあり、カイラはアティカと共に御者台に乗り込んだ。
馬車がゆっくりと走り出す。微かな振動に揺られながら、向かいに座るセシリアスタを見た。セシリアスタは窓の外を見ており、その横顔は夕焼けに染まり美しかった。
「……どうした?」
レティシアの視線に気付き、セシリアスタは振り返る。レティシアはセシリアスタに見惚れていたなんて言えず、言葉を濁す。
「いえ、その……今日はありがとうございました」
礼も言ってなかったと思いだし、レティシアは深々とお辞儀をする。そんなレティシアに、セシリアスタは微笑みながら答える。
「気にするな。私がしたかったことをしたまでだ」
そうは言われても、仕事を休ませてまで買い物に付き合わせてしまったのは事実。そこでふと、疑問が生じた。
「あの、今日のお仕事は休んでも大丈夫だったのでしょうか……?」
「構わん。半日が一日になっただけだ」
その一言に、ホッと安堵する。今日は朝から怒涛の一日だった。夢でも見ているのではないかと、頬を抓った。うん、痛いわ――。
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
痛みに耐えながら、セシリアスタに微笑み返すレティシア。夢ではない。約束も、叶ったのだ。
「セシル様」
「どうした」
「これから、どうぞよろしくお願いいたします」
改めて挨拶をするレティシアに、セシリアスタは「ああ」と小さく囁いた。