魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
翌朝1
「ぅ、んぅ……」
寝返りをうち、普段とは違う感触のベッドに違和感を覚え目を覚ます。天蓋付きのベッドからゆっくりと上体を起こし、寝ぼけまなこで辺りを見回した。
「ここは……」
白を基調とした壁、シンプルながら可愛らしい小さな花のワンポイントがあしらわれた淡いピンク色で統一された家具、見たことのない部屋……。
「あ、そっか……」
ここはクォーク邸ではなく、ユグドラス邸。昨日から此処が新たな家なんだ――。そう思い出し、レティシアは頬を抓った。うん、痛い。
「昨日ことは、夢じゃなかったのね……」
未だに信じられず、レティシアは反対の頬を抓った。やはり痛いということは、これは現実なのだ。ベッドから下り、窓に歩み寄り、そっとカーテンを開け朝日を身に受ける。眼下に広がる薔薇の庭園が美しく、レティシアの心に潤いを与えた。
「おはようございます、お嬢様」
「よく眠れましたでしょうか?」
「おはよう。カイラ、アティカ」
ドアをノックし入ってきたカイラとアティカに、レティシアは振り返り挨拶をする。カイラの侍女服も新しくなり、可愛らしい装いに変わっていた。
「新しい制服も似合ってるわ」
「えへへ、ありがとうございます」
主人であるレティシアに褒められ、カイラは頬を掻きながら照れる。
「先に湯を張ってきます」
「ありがとう、アティカ」
レティシアに礼を言われ、少しだけたじたじのアティカに首を傾げる。何か変なことを言っただろうか――。
「さあさあ! 食事の準備が出来る前に湯あみしちゃいましょうっ」
カイラに背を押され、ドアを隔てた隣のバスルームへと進む。スッとアティカはバスルームから出て行き、扉が閉まる。ナイトドレスを脱いでいる間に湯も溜まり、ゆっくりと体を沈めていく。心地よい温度に、思わずほぅ、と息を吐いた。
「アティカさんのアドバイスで、湯あみは恥ずかしがるだろうからって今まで通り私が担当することにしたんです」
「そうだったのね……アティカには後でお礼を言わなきゃ」
髪を優しく洗われながら、レティシアはアティカの心遣いに感謝する。確かに、今までカイラ一人だったのが急に二人になったら恥ずかしさに体が強張ってしまっていただろう。
髪を洗い終え、体をマッサージしながら洗われていく。昨日の疲れもあったのか、意外と凝り固まっていたようだ。
「さ、髪を乾かしましょうか」
バスタブから出て体を拭かれた後、下着を履きバスローブを羽織らされる。髪をタオルで包み、そのまま部屋の中にあるドレッサーの前で待つアティカの側に進まされる。
「さ、ここで乾かしましょう」
アティカはレティシアをドレッサーの前に座らせ、見知らぬ機械を取り出すと、カイラにそれを渡す。
「昨日教えたとおりに、ね」
「了解ですっ」
レティシアの後で、二人が会話をしている。昨日の買い物もあり、既に中は良好のようだ。カイラが機械に魔力を注ぐと、機械の先から温かい風が吹いてきた。
「それ、もしかして魔道具なの?」
「はい、小型送風機と言いまして、髪を乾かすのに用いられます」
興味深々に訊ねるレティシアに、アティカは髪の湿気をタオルで拭いながら答える。アティカに髪を優しく梳かれ、カイラとは違った梳き具合に心地よさを覚えた。
カイラはというと、魔力調整に必死なのか真剣な眼差しで小型送風機を凝視している。
「さて、髪も乾きましたので、香油を付けさせてていただきます」
「ありがとう、アティカ」
鏡越しに微笑むと、アティカは目を瞬かせ、微かに口角を上げた。その横では、カイラが疲れた表情を浮かべていた。
香油も塗り終り、カイラが着替えを取り出す。ビスチェにドロワーズを用意され、次にクローゼットを開ける。
「今日はどれに致しますか?」
「今日はグリフォンを見せて貰うから、動きやすいものがいいかしら」
昨日、大量に購入した為どのような服があったか覚えていない。ここは二人に任せた方がよさそうと判断したレティシアは、二人に決めて貰うことにした。
「なら、こっちのフレアスカートタイプのワンピースはどうですかね」
カイラが取り出したのは、淡いピンクの膝丈のワンピースだった。これならば大丈夫だろうと、アティカも頷いた。
「では、お着換えしちゃいましょうっ」
カイラの言葉の後、アティカの手伝いも入り着替えだす。ビスチェにドロワーズを着こみ、ワンピースへと袖を通そうとする。その時。
「どもども~! レティシア嬢おはようございまーす!」
ノックもなしに、エドワースが入ってきた。
「きゃああああああっ」
慌ててしゃがみ、身を隠す。カイラとアティカが前に立ち、エドワースから見えないように隠した。
「やっべ! すみません何時もの癖でっ」
慌ててエドワースは部屋から出ようとするが、それよりも早くアティカが動いた。
「ノックしろこの大馬鹿者が」
「へぶっ!?」
硬く握りしめた拳で殴るアティカ。渾身の一撃を腹に食らい、エドワースが部屋の外に吹き飛んだ。
壁にぶつかり呻くエドワースを見下ろし深く溜息を吐きながら、アティカは静かにドアを閉めた。
寝返りをうち、普段とは違う感触のベッドに違和感を覚え目を覚ます。天蓋付きのベッドからゆっくりと上体を起こし、寝ぼけまなこで辺りを見回した。
「ここは……」
白を基調とした壁、シンプルながら可愛らしい小さな花のワンポイントがあしらわれた淡いピンク色で統一された家具、見たことのない部屋……。
「あ、そっか……」
ここはクォーク邸ではなく、ユグドラス邸。昨日から此処が新たな家なんだ――。そう思い出し、レティシアは頬を抓った。うん、痛い。
「昨日ことは、夢じゃなかったのね……」
未だに信じられず、レティシアは反対の頬を抓った。やはり痛いということは、これは現実なのだ。ベッドから下り、窓に歩み寄り、そっとカーテンを開け朝日を身に受ける。眼下に広がる薔薇の庭園が美しく、レティシアの心に潤いを与えた。
「おはようございます、お嬢様」
「よく眠れましたでしょうか?」
「おはよう。カイラ、アティカ」
ドアをノックし入ってきたカイラとアティカに、レティシアは振り返り挨拶をする。カイラの侍女服も新しくなり、可愛らしい装いに変わっていた。
「新しい制服も似合ってるわ」
「えへへ、ありがとうございます」
主人であるレティシアに褒められ、カイラは頬を掻きながら照れる。
「先に湯を張ってきます」
「ありがとう、アティカ」
レティシアに礼を言われ、少しだけたじたじのアティカに首を傾げる。何か変なことを言っただろうか――。
「さあさあ! 食事の準備が出来る前に湯あみしちゃいましょうっ」
カイラに背を押され、ドアを隔てた隣のバスルームへと進む。スッとアティカはバスルームから出て行き、扉が閉まる。ナイトドレスを脱いでいる間に湯も溜まり、ゆっくりと体を沈めていく。心地よい温度に、思わずほぅ、と息を吐いた。
「アティカさんのアドバイスで、湯あみは恥ずかしがるだろうからって今まで通り私が担当することにしたんです」
「そうだったのね……アティカには後でお礼を言わなきゃ」
髪を優しく洗われながら、レティシアはアティカの心遣いに感謝する。確かに、今までカイラ一人だったのが急に二人になったら恥ずかしさに体が強張ってしまっていただろう。
髪を洗い終え、体をマッサージしながら洗われていく。昨日の疲れもあったのか、意外と凝り固まっていたようだ。
「さ、髪を乾かしましょうか」
バスタブから出て体を拭かれた後、下着を履きバスローブを羽織らされる。髪をタオルで包み、そのまま部屋の中にあるドレッサーの前で待つアティカの側に進まされる。
「さ、ここで乾かしましょう」
アティカはレティシアをドレッサーの前に座らせ、見知らぬ機械を取り出すと、カイラにそれを渡す。
「昨日教えたとおりに、ね」
「了解ですっ」
レティシアの後で、二人が会話をしている。昨日の買い物もあり、既に中は良好のようだ。カイラが機械に魔力を注ぐと、機械の先から温かい風が吹いてきた。
「それ、もしかして魔道具なの?」
「はい、小型送風機と言いまして、髪を乾かすのに用いられます」
興味深々に訊ねるレティシアに、アティカは髪の湿気をタオルで拭いながら答える。アティカに髪を優しく梳かれ、カイラとは違った梳き具合に心地よさを覚えた。
カイラはというと、魔力調整に必死なのか真剣な眼差しで小型送風機を凝視している。
「さて、髪も乾きましたので、香油を付けさせてていただきます」
「ありがとう、アティカ」
鏡越しに微笑むと、アティカは目を瞬かせ、微かに口角を上げた。その横では、カイラが疲れた表情を浮かべていた。
香油も塗り終り、カイラが着替えを取り出す。ビスチェにドロワーズを用意され、次にクローゼットを開ける。
「今日はどれに致しますか?」
「今日はグリフォンを見せて貰うから、動きやすいものがいいかしら」
昨日、大量に購入した為どのような服があったか覚えていない。ここは二人に任せた方がよさそうと判断したレティシアは、二人に決めて貰うことにした。
「なら、こっちのフレアスカートタイプのワンピースはどうですかね」
カイラが取り出したのは、淡いピンクの膝丈のワンピースだった。これならば大丈夫だろうと、アティカも頷いた。
「では、お着換えしちゃいましょうっ」
カイラの言葉の後、アティカの手伝いも入り着替えだす。ビスチェにドロワーズを着こみ、ワンピースへと袖を通そうとする。その時。
「どもども~! レティシア嬢おはようございまーす!」
ノックもなしに、エドワースが入ってきた。
「きゃああああああっ」
慌ててしゃがみ、身を隠す。カイラとアティカが前に立ち、エドワースから見えないように隠した。
「やっべ! すみません何時もの癖でっ」
慌ててエドワースは部屋から出ようとするが、それよりも早くアティカが動いた。
「ノックしろこの大馬鹿者が」
「へぶっ!?」
硬く握りしめた拳で殴るアティカ。渾身の一撃を腹に食らい、エドワースが部屋の外に吹き飛んだ。
壁にぶつかり呻くエドワースを見下ろし深く溜息を吐きながら、アティカは静かにドアを閉めた。