魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

翌朝2

「本っ当に申し訳なかったです!」
 食堂で食事をとっているレティシアのすぐ横で土下座をしてくるエドワース。背後に佇むカイラとアティカの視線が痛い。レティシアは彩り豊かな豆と鶏肉の入ったあっさりめのスープを口に運びながら、内心溜息を吐いた。

 エドワースが言っているのは、先程の不慮の事故のことだろう。だが、使用人の多くいる食堂で謝られては周りに知らしめているのと変わりない。レティシアはスープを置き、エドワースへと視線を向けた。
「その、見ていないのでいしたら構わないです……不慮の事故でしょうし」
「レティシア嬢……っ」
 恥ずかしかったのは事実だが、見られていないならばこれで終わりにしたい。だが、背後の侍女二人はそうは言ってくれない。
「絶対に見てます、レティシアお嬢様」
「うんうん。確実に見てます」
 アティカとカイラの言葉に、エドワースは二人に振り替える。
「見てないって! 見てたとしても見てないって言う!!」
「やっぱり」
「最低ですね……」
 アティカとカイラの冷めた眼差しが、エドワースに突き刺さる。エドワースは涙目になりながらも言葉を続ける。
「いやいやいやっ、仮に見てたらセシリアスタ様に殺されるから! 誓って! 見てないです!」
 くるりとレティシアの方に振り返り、助けを求めるような瞳を向けられる。レティシアははぁ、と溜息を吐きながら、未だエドワースを睨み続ける二人に顔を向けた。
「エドワースさんはそう言っているし、私も気にしてないわ。だから落ち着いて、ね?」
 レティシアの言葉に、苦虫を嚙み潰したような表情を向けていた二人は溜息を吐き、渋々といった風に表情を戻した。
「レティシア嬢~っ」
「エドワースさんも、今後はちゃんとノックしてから入ってくださいね」
「了解っす!」
 満面の笑みで頷くエドワースにやれやれと肩を落としながら、ふと気になったことをきく。
「そういえば……セシル様はどちらに?」
 食堂にはカイラやアティカを始めとした使用人達とエドワース、レティシアしかいない。不思議に思うレティシアに、エドワースは即座に答えた。
「あの人は今日は王宮で仕事です。俺はグリフォンを見るっていうレティシア嬢の付き添いとして残ったんです」
「それで、私を呼びに部屋に来たんですね」
「いや~、そのつもりだったんですけど、まさか着替え中とは知らず……本当に申し訳ないです」
 エドワースなりの気遣いが、空回りした結果だったらしい。確かに、本来ならば既に朝食は取り終えている時間だ。先日の疲れを気にしたセシリアスタなりの気遣いも裏目にでたようだ。
「もう気にしないで。さ、立ってくださいな」
 食事を終えたレティシアに手を差し伸べられ、エドワースは手を取り立ち上がる。セシリアスタも長身だが、エドワースも長身なのだなと思った。
「食休みが終えたら、改めて部屋に迎えに行きます」
「わかりました」
「では」
 手の甲に唇を落とし、エドワースは食堂を後にした。レティシアの背後にいる二人は、未だエドワースのことを話している。
「あの馬鹿さ加減がなければまともなのに……」
「天は二物を与えずって言いますけど、本当ですね」
 そんな二人に対し苦笑しながら、レティシアは部屋に戻る。まだ道も覚えきれていないのでアティカが先頭に立ち道案内をして貰う。
「そういえば、私の部屋の隣はどんな部屋なの?」
 ふと、部屋に入る直前に気になったことを聞いてみる。
「隣の部屋はセシリアスタ様のお部屋です」
「えっ!?」
 思いもよらなかったアティカの発言に、レティシアは頬を赤らめた。そんなレティシアに気付いているのかいないのか、アティカは言葉を続ける。
「ちなみに、部屋の中に両部屋を繋げる扉がありますので、ご成婚なさった後はその扉を介して行き来して貰うようになります」
 アティカの言葉に、次第に頬が紅潮していく。後数ヶ月で成人だ。そしたらセシリアスタの部屋を行き来するようになる……。そう思うと、頬だけでなく顔全体が赤くなっていった。
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